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「おたる北運河かもめや」店主 がつづるエッセイ vol.3
(小樽通2024冬号 初登場)
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昼間の暑さが去って、朝晩キリリと冷え込むようになると、街の石造りの建物にからまるツタが、一気に紅葉する。
しばらく本州に暮らしていて、小樽に戻ってきたとき、この街の錦の芸術に目を見張った。
北運河のほとりで宿を始めて、忙しく過ごしていた秋のことだ。
宿の裏の線路跡にたたずむ古い石倉が、夏の間、緑のツタにおおわれていたのを知ってはいたが、宿の裏に行くことがなかった。
ある冷え込んだ朝のこと、何気なく裏に回ってみると、あの石倉が、紅のベールでおおわれたように、美しく着飾っていた。

深い紅、明るい赤、オレンジに近い赤…と、天然のグラデーションが息をのむほど美しい。
「いつの間に?…」
そう、神の技は一晩でツタの葉を絶妙な色に塗り替える。
この植物は、繁殖力が強く、最初はところどころ開けられ、たぐり寄せられたれたカーテンのようだったが、数年のうちに、この倉をすっぽり包んでしまった。
もうすぐ赤くラッピングされた石倉ボックスが、線路跡に突然出現して、通る人を驚かせるに違いない。

この石倉だけでなく、小樽は運河周辺の建物や山の手のあちこちの家でも、ある時期ツタの芸術展が、始まりを告げずに幕を開ける。
街はさながら美術館だ。旅人は、歩きながら建物の壁を彩る紅、赤、黄の華麗な緞帳(どんちょう)に目を見張るはずだ。

10月の中旬から下旬にかけて、朝晩の寒暖差が大きくなると、ツタの色は美しく変化する。その年の秋の気温によって、紅葉の時期は多少変わるのだが。
運河のふちに建つ石倉の飲食店にも、10月になると赤いツタのベールがかかるが、最近は建物が傷むとのことで、この植物のつるを取りはがしてしまうところもあるようだ。
わが宿も、緑のツタがおおい始めたので、人に頼んではがしてもらったが、あれっ? またいつの間にかぐんぐん壁を緑に塗りつぶしている。
その勢いたるやものすごい。
「ちょっと待って、そんなところまで勝手に緑にしないで!」
放っておくと、窓までふさがってしまう。
美しさに伴う困惑…。
夜中にこっそり絵を描いていく、バンクシーみたいなものかもしれない。
ツタの絵画展の主な場所は?
そうねぇ、はっきりとは言えないけど、北のウォール街と呼ばれる石の建物が集まる日銀のあたり、観光の中心の場所でも、毎年華やかに開催されていると私は一人で思っているけどね。


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※記事の内容は、配信時の情報に基づきます。

北運河は哲学の道
宿のおかみのトコトコ歩記(あるき)
(クナウマガジン出版)
内容は、お客さんとのやりとりで、笑ったり、涙したり。背景には、いつもどこかに小樽の風景がある。イラストは、一緒に宿をやっている息子が描いた。こんな深刻な話が、こんなおかしい絵になるの? と母は笑いころげた。このギャップがおもしろい。
1400円で、送料は1冊210円。
注文はかもめやへ
TEL & FAX 0134-23-4241
携帯 090-2816-2865
e-mail kamomeya@sky.plala.or.jp
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過去に配信したエッセイはこちら
小樽通2024冬号|北運河は哲学の道~宿のおかみは今日も行く~
小樽通2025春号|花咲く線路跡、犬を連れて~宿のおかみは今日も行く~

「かもめや」店主 佐藤光子
1歳から小樽育ち。東京や札幌で編集の仕事に携わり、2007年から「おたる北運河かもめや」を開業。北運河の小さな宿に集う個性豊かな旅人たちと小樽の風景をつづったエッセイ「ポーが聞こえる」を2013年に出版。小樽をこよなく愛する。
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