project

【月刊小樽自身2022年7月号】やっぱり小樽の豪商はすごかった - 旧岡崎家能舞台

2022.06.25

※記事の内容は、配信時の情報に基づきます。 最新情報は、各施設へお問い合わせください。


明治大正から昭和初期にかけての歴史的な財産がまちのあちこちに残されている小樽。月刊小樽自身6月号では歴史的建造物「旧寿原邸」をご紹介しましたが、今回は北海道に唯一である能舞台に注目!登場人物は小樽の豪商、岡崎謙氏です。

▼あとで読んでね!
【月刊小樽自身2022年6月号】豪商と同じ景色をあなたも見れる[公開中!]旧寿原邸



「旧岡崎家能舞台」をざっくり説明すると…

小樽の繁栄を今に伝える歴史的建物物のひとつ「旧岡崎家能舞台」は、佐渡出身の荒物雑貨商であった岡崎謙氏(以下、親しみと尊敬をこめて謙さんと呼ばせていただきます)により、大正15年に建てられたもの。

その場所はなんと、謙さんの自宅の中庭でした!

幼いころから佐渡で能楽に親しんでおり、在京中も宝生流(能楽の諸役のうち、主演などを勤めるシテ方の流儀)に傾注していった謙さんは、自宅と能舞台を建てようと計画し、ついに大正14年、能楽堂の建築に着工し、翌大正15年に舞台が完成します。

謙さんのすごいところは、この能舞台を個人の占有物とするのではなく、東京から能楽師を招き、演能会を数多く開催。当時の小樽での公演回数や能楽師の数、能を学ぶ人の数などは、地方都市としては全国に類を見ないほどだったそう。また能会には市民を呼ぶなど、この能舞台は、小樽はもとより北海道に能を普及するための重要な施設となっていました。

昭和29年に謙さんが亡くなると、その遺志により小樽市に寄贈され、昭和36年に現在の場所である小樽市公会堂に移築されます。

小樽市公会堂

▶小樽市公会堂は、月刊小樽自身6月号で紹介した「小樽のセントラルパーク 注目!小樽公園」の中にあります



岡崎謙という人物

明治17年、謙さんが7歳の時に父親が小樽に移住し、卸問屋をはじめますが、4年後の明治21年に謙さんも小樽に渡ってきます。(量徳小学校に通っていたそうですよ)その後、13歳から東京で勉強をしますが、卒業後は小樽に戻り、家業を手伝います。

明治32年、父親の逝去に伴い家業を継いだ時は、謙さんは22歳。小樽はその年に国際貿易港となり、小樽経済とともに岡崎家の事業も発展していきます。(自宅の中庭に能舞台を建てちゃうのも納得ですね!)

小樽市公会堂 旧岡崎家能舞台に展示されている写真。左が岡崎謙氏。

そして明治35年、25歳の謙さんは小樽区会議員(※当時の小樽は区制)に当選します!昭和2年には市議会議長(※大正11年から小樽は市制)にも就任、通算7期の33年間にわたり議員を務めました。

就学に困難な地元の子どもたちのために、岡崎育英会という支援事業を起こし教育費を支援するなど、謙さんはまさに小樽の名士でした。



旧岡崎家能舞台の特徴

謙さんは、能舞台の設計の為に大工を伴って靖国神社の能舞台を視察するなど、伝統的な能舞台建築を目指しました。

当時の金額で17,000円をかけて建てられた能舞台。江戸幕府が幕末に整えた最上級の格式にのっとっている能舞台として、東北以北で唯一のものとされます。

能舞台の床には九州産のヒノキ、柱には道産の松など、全国各地の特選材を使用されましたが、特に要所となる鏡板には、故郷の佐渡で掘り出した神代杉(じんだいすぎ)が用いられました。

入母屋造りの屋根

蟇股(かえるまた)

また、大正15年の能舞台の完成から、およそ1年半後となる昭和2年に、謙さんは狩野派第17代狩野秉信を京都から呼び寄せ、2ヶ月をかけて鏡板の松と竹、揚幕板戸の唐獅子を描かせています。これは、木材を建てた環境に慣れさせ、安定させるためという配慮にもとづくものでした。

鏡板の松と竹



「旧岡崎家能舞台を生かす会」と能面作家 外沢照章氏

残念ながら、小樽市に寄贈されたあとは、しばらく空白期間がありましたが、能舞台の整備と有効利用を目的に市民有志が動き出し、「能に親しむ会」や「旧岡崎家能舞台を生かす会」が発足します。

「旧岡崎家能舞台を生かす会」は、移築してから演能されずにあった能舞台の復活を願い、謡や仕舞などの講座や「能楽体感ゼアミナール」など、市民に能の魅力を伝える活動を続けています。

能楽体感ゼアミナール

能楽体感ゼアミナール

▼旧岡崎家能舞台を生かす会
Facebookページ



また、能面作家の外沢照章氏は、能舞台に魅かれて小樽に移住。演能への作品提供や能舞台に隣接する公会堂を拠点に15 年にわたる公開制作や能面展を開催しています。

▼外沢照章・能面ギャラリー日記
FC2ブログ



「旧岡崎家能舞台」を見に行ってみよう!

小樽市公会堂では、毎年、夏季限定で能舞台が一般公開されています。
小樽市公会堂 公式ホームページ

※日にちによっては、招待または有料の公演プログラムが予定されていますので、ご注意ください。

小樽市公会堂
小樽市花園5丁目2番1号
電話0134-22-2796



市立小樽美術館 特別展(2022年7月10日まで)

市立小樽美術館では、特別展「小樽の能楽 ~ 旧岡崎家能舞台と能面・装束の世界」が開催中です。

特別展「小樽の能楽 ~ 旧岡崎家能舞台と能面・装束の世界」
・会 期 :2022年5月14日(土) ~ 7月10日(日)
・休館日 :毎週月曜日
市立小樽美術館
電話:0134-34-0035



岡崎謙氏が残した能舞台そのものは、建築の視点からも小樽にとっては素晴らしい財産ですが、能楽の普及にも取り組まれた功績も大きいことでしょう。小樽では、昭和10年制作の組み立て式能舞台も発見されました。

明治生まれの豪商たちが小樽のまちに残してくれたものをたどってみるのも、小樽の楽しみ方のひとつかも。謙さんの能舞台も、是非見にいらしてくださいね!