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【小樽通2025春号】小樽の心 ー 政寿司・利尻屋みのや・北一硝子・ノイシュロスのおもてなし認証バナシ

2025.03.15

 2024年、全国で初めて、地域独自の「小樽おもてなし認証」制度が誕生。その栄えある第1回目の認証を受けた小樽市内の企業や団体、店舗にインタビューを行い、その業種ならでは、その店ならではの「おもてなし」について語ってもらいます。

 (取材・執筆/田口智子



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おたる政寿司

差別化のカギは教育「おたる政寿司 本店」

 1935年創業の老舗として、市民や観光客の皆さまに愛され続けている「おたる 政寿司」。「おいしさづくり、人づくり、幸せづくり」を理念に掲げ、小樽市内・寿司屋通り沿いの「本店」と、運河前の「ぜん庵」、銀座や新宿、そしてタイにも支店を持つ有名店です。

 そんな「政寿司」さんに、他の寿司店との一番の違いは何でしょうか?とお聞きしたところ、「教育の徹底です」という答えが。ともに入社20年以上のベテラン社員であり、サービス業におけるプロフェッショナルな接客スキルを認定する「サービス接遇検定」1級を取得した中川さんと千葉さんを中心に、スタッフをしっかりと教育しているそうです。

 「たとえば、お履物は一足、お箸は一膳であっても、学生のアルバイトさんは「ひとつ」や「1個」と言ったりします。やはり、政寿司の一員として“かしこまりました、一膳ですね”と言えるよう、しっかりと教育します。仕事を覚えてもらうだけではなく、一般常識を教えていると言ってもいいかもしれません」という中川さん。学生さんは卒業後、別の仕事に就くこともありますが、「政寿司にいて良かった、とても勉強になりました」と巣立っていくそうです。

 また、「たとえ板前さんが出してきたものでも、そのまま出すというのはプロではありません」とも語る中川さん。「巻物の形がやや崩れていたり、もしかしたら、髪の毛などが入っているかもしれません。忙しくてもしっかり確認し、必要であれば作り直しをお願いします。勇気はいりますが、お客さまに“確かなもの”をお出ししたいという想いです。そんな私たちの姿を見て、学生アルバイトさんも同じように心がけてくれます」とのこと。

 リピーターの多い政寿司には、道内各地から毎年同じ時期に来店される方もいますが、あえて予約はせずに来る方も多いそう。カウンターを担当する千葉さんは、常連のお客さまに「今年、〇回目ですよね?」などと声をかけます。「予約をしていなくても覚えてもらっているということに、お客さまはとても喜ばれます」とニッコリ。「私たちスタッフも名前を憶えていただき、名指しでいらっしゃるお客さまもいるので、私たちも嬉しいです」と語る千葉さんと中川さん。「一人一人のお客さまとの繋がりを大切に」というおもてなしが、90年近くもの長い間、愛され続けている理由でもあるのでしょう。

ご案内や片付けなど、自分自身もテキパキと動きながら、スタッフの配膳も見守る中川さん。見て、聞いてなど、五感をフル活用して、お客さまが求めていることを察し機敏に動きます。

さらに良いおもてなしを「おたる政寿司 ぜん庵」

 基本的に、「本店」と「ぜん庵」は、ほぼ同じスタッフがローテーションで勤務していることもあり、目指す「おもてなし」に違いはありません。ただ、やはり「ぜん庵」は小樽運河の目の前ということもあり、より観光客の割合が高くなるそう。

 「覆面調査での結果は、じつは本店より「ぜん庵」のほうが高い評価を受けたんです」という中川さん。「良い評価も、客観的に自分たちのおもてなしを気づかせてもらいました。もちろん、チェックが入ったところは非常に勉強になりました」と見せてくれた評価シートには、びっしりと赤ペンで書きこみが。“どうしたらもっと良くなるか”の改善点が書き込まれたシートは、「本店・ぜん庵の社員、パート、アルバイトさん全員で共有しています」とのこと。「値段の割にウーロン茶が少なく感じたというご指摘は、すぐに対応しました。グラスを変え、氷の数も変えました。日ごろから、クレームをクレームと思わず、大事な勉強をさせていただいたと受けとめ、改善に取り組んでいます」と語ります。改善のためのプロジェクトチームも作って、取り組まれているそうです。

 さらに、今年からは月に一回の勉強会を定例化。「たとえば、1月は“政寿司のイメージ”というテーマでそれぞれが考え、話し合います。皆の意識を、さらに一つにしていこうという取り組みです」と教えてくれました。以前からやりたいと思っていた勉強会でしたが、なかなかできずにいたところ、おもてなし認証を受けたことで「今年は絶対にやろう!」と実現したそうです。

 約60名のスタッフが、「さらに良いおもてなしを」と一丸になって日々取り組んでいる政寿司。他のお店との違いに、「教育の徹底」を挙げた理由がよくわかりました。

 

「ネコちゃんロボットには、運んでもらうだけ。お客さまへは、私たちスタッフが心を込め、直接お出しします」と中川さん。



利尻屋みのや

 堺町通りにある昆布専門店「利尻屋みのや」は、「お父さん預かります」「七日食べたら鏡をごらん」というユニークな看板でも有名なお店です。そんな「利尻屋みのや」のスタッフは、みなさんフレンドリー。「ホラ吹き昆布茶」や「150歳若返るふりかけ」など、面白い商品名にも表れているとおり、店内はどこかホッとできるような気取らない雰囲気が魅力です。

 「おもてなしには、笑顔と臨機応変さが大切」と語るのは、簑谷 和臣社長。「マニュアル的な挨拶は、うちが目指しているおもてなしとは言えません。だから、接客マニュアルはないし、自分からスタッフに注意することも全くありません」とのこと。にもかかわらず、おもてなし認証の取得にかかる「覆面調査」において、接客の点数は非常に良い結果だったというのだから驚きです。

社長自ら、お客さまと楽しくトーク。時にはジョークも飛び出し、お客さまを楽しませています。

 社長いわく、「利尻屋みのや」では、新人教育に力を入れているとのこと。その新人教育を担当するのが、1つ上の先輩にあたる「主任」の皆さんです。主任の皆さんは、2週間に一度勉強会を開催しているそうですが、内容やテーマは自分たちで決めるそう。たとえば、12月の勉強会テーマは「次回の社員旅行をどうするか」。それは勉強なの?とも思いますが、50人近い社員・スタッフの意見を聞き、取りまとめ、1つに決めるというプロセスのなかで、主任たちは決断・決定するという経験を積むことになります。接客同様、社員旅行についても社長からの指示はゼロ。全部自分たちで考え進めていくなかで、任されている「責任感」を感じながら、成長していくのだそうです。

 そんな主任たちが新人さんを教育するにあたり、「教える自分たちがしっかりしていないと…」という想いから、教えられる側の新人さん以上に、教える側の主任が・・・、さらにその先輩たちが・・・と、自然に店全体のおもてなし力が向上していくのでしょう。直接「おもてなし」について細かく教えなくとも、先輩たちを見ながら、新人さんたちは学び、身につけていくようです。

 「おもてなしにゴールはありませんし、そもそも、おもてなしは概念が広い。だからこそ、スタッフの自由度を高くしています。お客さまを想っての臨機応変な対応であれば、たとえスタッフとして決められた業務じゃなくても、会社としてはOKです。そこが認められるかどうかで、会社の器も試されると思っています」と語る簑谷社長。社員に任せ、見守るという会社のスタイルから生まれる「自由度の高いおもてなし」が、この店のあたたかなおもてなしに繋がっているんですね!



北一硝子・北一ヴェネツィア美術館 各店の取り組み

●北一硝子三号館 洋のフロア~北一プラザ~
 明治24年建築の小樽市指定歴史的建造物でもある「北一硝子三号館」内には、複数の店舗(フロア)があります。なかでも、三号館に入ってすぐの場所にあるのが「洋のフロア~北一プラザ~」。店長の佐藤さんも、「最初に入られるフロアなので、特に“入って来られた時のお声がけ”を意識しています」
 石造倉庫とランプが織りなす「洋のフロア~北一プラザ~」には、“スピード感と丁寧さ”を大切にしたおもてなしがありました。

●北一硝子三号館 洋のフロア~北一プラザ~
 「北一硝子はたくさんの店舗がありますし、なかには何を選んでいいかわからない方もいらっしゃいます。混雑でご対応が難しい時も、お客さまに商品の魅力がわかるような工夫をしています」と語る三田店長。じつはこの展示と広告の工夫により、入社して間もないスタッフも商品のポイントがすぐわかり、接客する側にとっても助かっているのだとか。

●北一硝子三号館 カントリーフロア
 おもてなし認証を取得後は、「取得施設同士の横のつながりも増えました。他の店舗や他社の取り組みを聞けて、自分たちのおもてなしを振り返る良い機会になっていますし、とても勉強になっています」と菅原店長。「ただ、かしこまって考えすぎず、みんなの素も出してもらっています。そのおかげで、小樽らしいおもてなしになっていると思いますよ」とも教えてくれました。

  △ここまでの3施設の更に詳しい内容は、こちらからご覧ください



●北一硝子三号館 北一ホール
 天井から吊るされたシャンデリアや各テーブルには石油ランプが優しく灯る「北一ホール」は、「ここに来たくて来ました」という方も多いそう。店長の渡辺さんは、「社内で開催している『おもてなし研修』を受けることで、忙しい時でも丁寧な口調や笑顔が増え、クレームが減りました。おもてなし認証を受けたことで、パートさんも従業員も意識が高まったからだと思います」と語ります。

●北一硝子三号館 テラス
 カラフルな「8段ソフト」が人気の「テラス」について、社内の他部署の社員から「テラスは小樽の思い出づくりに貢献してくれている」と評されています。キレイに巻けるのは熟練スタッフの技術の賜物、「せっかくなら美しい写真を撮れるように」と上部店長。お客様のピンチに対応したことで、素敵な人間関係につながったお話も語ってくれました。

●北一硝子 クリスタル館
 シマエナガのオブジェがお出迎えする1階フロアと、高級感あふれるクリスタルガラスが並ぶ2階フロアで、雰囲気が異なる「クリスタル館」。梶田店長は「スタッフの団結力が強いです。お客さまが笑顔だったねと報告しあったり、接客を褒め合ったり」と嬉しそうに語ります。スタッフ同士の良い空気感は、日々の接客や店舗の雰囲気にも伝わるもの。接客のテクニックやスキルだけではない「おもてなし」を感じることができます。

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●北一ヴェネツィア美術館
 ゆっくりじっくりと作品と向き合う静かな空間を作ることが、ここでの「おもてなし」。とはいえ美術館の1階には、入場無料ということもあり、国内、海外問わず、たくさんのお客様が。美術館の受付と知らずに道を聞く方も多いそうで、「インフォメーションとして、快くご対応しています。美術館の業務ではなくとも、様々なお客さまに臨機応変に対応する実践の場とも言えます」と穏やかな笑顔で金指館長は答えてくれました。

●北一ヴェネツィア美術館 ミュージアムショップ
 ヴェネツィアンガラスのオブジェやアクセサリーなどを扱うショップでは、高額なものが多く、商品の取扱いに注意せざるを得ない状況も。「注意のされ方によっては、店の印象すべてが悪くなってしまう」とご案内に工夫を凝らす大西店長。ただ買っていただくのではなく、「ヴェネツィアンガラスの価値や魅力をきちんとお伝えする」ことも、何より大切に取り組んでいます。

ヴィノテカ
 「イタリアワインの店ですが、ワイン全般について知らないとお客様にご満足いただけません」と語る棚内店長。「小樽のワインは?」「なぜイタリアワイン?」というご質問も多いそうですが、しっかりとコミュニケーションを取り、納得をしていただくと、ご購入に繋がることが多いそう。ワイン好きのお客さま一人ひとりと密なコミュニケーションを取ることが、ヴィノテカ流の「おもてなし」です。

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地酒屋北一
 北海道内の日本酒や焼酎、梅酒に地ビールなどがずらりと並ぶ「地酒屋北一」では、お客さまの様々な要望に臨機応変に対応。新人メンバーが入ると、ベテランスタッフがしっかりとお酒の知識と接客方法を教えていくそう。「認証取得時の覆面調査のおかげで弱い点に気づき、前向きに捉えることができました」と松田店長。改善の取り組みを重ね、更なるおもてなしに進んでいきます。

北一硝子 アウトレット
 北一硝子は検品に厳しいということをお客さまにお伝えし、アウトレット商品の価値を丁寧に説明するのも、「アウトレット」のおもてなし。松島店長は「最後の印象が大事なので、お帰りの際に一言加えて、ご挨拶をしています」と語ります。個性あふれる商品とお客さまの一期一会の出会いを、ベテランスタッフたちの丁寧な接客が支えているお店です。

北一硝子 製作体験工房
 「製作体験工房」は、コミュニケーションをとるのがうまいスタッフが多いそうですが、おもてなし認証を取得してからは、「そういえば、笑顔が少ないな」「声のトーンが落ちているな」と確認をするようになったと平田店長。研修後では、お客さまへの声掛けが増えたとも感じているそう。「世界に1つだけの作品」であり、想い出と共にずっと残る作品を提供するのも、北一硝子のおもてなしです。

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ホテルノイシュロス小樽

 四季折々の日本海を眺めることができる「ホテルノイシュロス小樽」。絶景を楽しみながらの露天風呂や、旬の食材による創作フレンチを味わう時間は、まさに非日常といえるでしょう。

 そんなノイシュロス小樽のおもてなしは、「思い出の1ページに残る時間になるように」という想いで、徹底し行われています。「例えば、チェックインの際に“今日、誕生日なんです”というお客さまがいれば、ドリンクのサービスや可能な限りお部屋のグレードアップを行います」と語る宿泊支配人の里館 忠幸さん。このようなサービスは、各スタッフの裁量に任されているそうです。

 時には、“ホテル内でプロポーズをしたい”というお客さまから事前に相談を受け、スタッフと共に演出を考えることも。ベッドの上に薔薇でハートマークを描いたり、お食事のフードカバーを取ると指輪が現れたり…。聞いているだけでもワクワクするような演出を、スタッフ協力のもと行うそうです。また、急病で深夜に救急病院へ行かれたお客さまをお迎えに行ったり、戻って来た際にはあたたかなお夜食を提供したり…。素敵な「非日常の空間」でありながら、あたたかな心通うおもてなしも行われているんです。

 「ホテルの語源は、ラテン語のhospes(ホスピス)。ここから派生した「hospitalis(ホスピタリス)」は「手厚いもてなし」なんですよ」と里館支配人。支配人自身も、「たまたまホテルから駅までの送迎ドライバーを担当した時、カップルお一組様だけだったので、祝津から北一硝子辺りまで、小樽の歴史の話などガイドしながら送迎したんです。暇だった若い時に、図書館で勉強していた小樽の歴史が役立ちました(笑)」と嬉しそうに話してくれました。そのように、日々「一期一会」を大切にしながら業務にあたっているそうです。

 また、ホテルノイシュロス小樽では、地元・小樽や後志の食材を使ったフランス料理もお楽しみの1つ。アレルギーの対応はもちろんのこと、「和食」を好まれる方には油を控え、和風のような味わいのソースをお出ししたり、連泊のお客さまに飽きさせないよう、毎日趣向を変えて料理を楽しんでいただいたり…。とにかく、お客さまファーストのおもてなしを心掛けているそうです。当然、大満足をされる方がほとんどで、毎年の大晦日の予約は、リピーターで半分近くは埋まるのだとか! 皆さん、チェックアウトの元日や2日に、次回の予約を入れて帰られるそうです。

 美しい自然に囲まれた非日常のホテルであっても、大切なのはあたたかで心を尽くしたおもてなし。そのおもてなしによって、「人と人との心通う瞬間」が、ホテルノイシュロス小樽には日々生まれているのでしょう。



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 様々なおもてなしの形がありました。こんな個性あふれるおもてなしが、小樽市内にさらに広がったら、観光客の皆さんはもちろん、私たち市民もどんなにか楽しく嬉しいことでしょう。おもてなしの輪を、もっともっと広げていきたいものですね。



ライター 田口 智子
1974年札幌生まれ。1996年に小樽市職員。観光振興室勤務などを経て、2007年にFMおたるに入社。2023年11月からフリーのパーソナリティー、ライターとして活動している。小樽の街歩きガイドブック『小樽さんぽ』『小樽さんぽ2』『とっておき!小樽さんぽ』などの著書がある。



  

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