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(取材・執筆/田口智子)
全国初!地域独自の仕組み「小樽おもてなし認証」とは
あなたがある飲食店に行ったとします。
店内の雰囲気も気に入り、料理もとても美味しいのに、笑顔のないスタッフから適当な接客を受けたとして、またその店に行きたいと思うでしょうか?
ほとんどの場合、答えは「No」でしょう。私たちはサービスを受ける際、良い接客、いわゆる「おもてなし」を受けると気持ちがいいものです。その「おもてなし」一つで、幸せな気持ちになることさえあります。
同じ商品を買っても、同じ料理を注文しても、おもてなしが変われば、私たちの満足度は変わります。だからこそ、目に見えない心配りやサービスこそ、もっと評価されてもいいのではないか。
コロナ禍を経て小樽では、「おもてなし都市・小樽」を目指したプロジェクトが、令和3年度からスタート。ついに本年、全国で初めて、地域独自の「小樽おもてなし認証」制度が誕生したのです。
初年度は、18事業者・29店が認証を取得
2024年7月9日に小樽芸術村 旧三井銀行小樽支店で行われた「小樽おもてなし認証」の第一回認証式。ここで、初年度に認証を取得した18事業者・29店に、認証書の授与が行われました。業務の関係上出席できなかった企業もありましたが、取得された各企業・店舗の皆さんは、美しいバイオリンとピアノの音色が響くなか認証書を受け取り、一言ずつスピーチを行いました。
スピーチでは「本日認証をいただきましたが、ここからがスタートだと思っています」「 認証は非常に嬉しく思っていますが、同時にその重さも感じております」といった言葉が聞かれ、「おもてなし認証」を取得した企業・店舗の、真摯な姿勢がうかがわれる認証式でした。
認証式の第二部は、NPO法人 日本ホスピタリティ推進協会の特任講師・角 俊英さんによる「おもてなし力向上セミナー」を開催。参加した皆さんは、さらなる「おもてなし力」向上のため、熱心にメモを取っていました。
厳しい審査を潜り抜けた「おもてなし」
これらの企業・店舗は、「お客さまに対して、わかりやすく案内・説明などを行うツールが整備されているか」や、「従業員の意見を把握し、意見を反映させる取り組み・仕組みづくりがなされているか」などの20項目のセルフチェックを行い、そのうち15項目以上該当していることが求められます。
セルフチェックをクリアした後も、覆面調査員による、店舗や施設でのサービス提供状況の調査や、専門審査員による現地審査会(現場責任者へのヒアリング)が行われ、最終的な審査判定会議のうえ、認証の合否が判断されます。
「最初のセルフチェックだけでも、かなり細かく、なかなか大変だった」という声が聞かれるほど、厳しい審査を経ての「小樽おもてなし認証」の取得であり、そう簡単には認証取得まで至らないということがわかります。一般的なサービスの品質を保っているのはもちろん、そこに小樽らしさや各店の個性を加えたオリジナルの「おもてなし」を作り上げ、その内容をスタッフが共有し、さらに日々高めていこうという姿勢のある企業・店舗だからこそ、「小樽おもてなし認証」を取得したのです。そのなかの2社に、お話を伺いました。
北海道ワイン株式会社「おたるワインギャラリー」
「小樽おもてなし認証」制度に、いち早くエントリーしたのが、北海道ワイン株式会社。営業推進課の担当課長として、ワインギャラリーの店舗に立つ竹内 浩二さんは、「セルフチェックは、昔から自然にやれていることも多かった」と話します。とはいえ、200点満点中、ワインギャラリーは153点という結果を受け、「社長から、47点落とした理由を考えて、そのマイナスを皆で埋めていくことで、より良いおもてなしになる。喜んじゃいけない」と言われて、襟を正す思いだったそうです。
昨年9月にリニューアルを行い、今年4月にグランドオープンしたばかりのワインギャラリーは、お客さまの試飲用にコイン式サーバーを設置したほか、食洗器を入れるなど機械化を進めました。
「その分、スタッフの手は空きます。各スタッフは、接客以外の仕事も抱えているので、空いた時間をつい自分たちの業務に充ててしまうことがある。でも、駅から遠く離れたこのワインギャラリーに、時間とガソリン代をかけ、わざわざ来ていただいているお客様に、こんなものかと思って帰ってほしくはない。機械化で便利になっても、決してお客様へのサービスをおろそかにはできません」と竹内さんは語ります。
また、ギャラリーのスタッフの中にはホテル経験者もいるそうで、「視野が広く、見ているところが違う。気づきや配慮の面で、日々勉強になっています」と、認証を取得した後も、スタッフ間で学びを深め、おもてなしを高めている様子がうかがわれました。「100人のお客さまがいたら、100通りのおもてなしがありますよね」という竹内さん。正解がないからこそ、慢心することなく、今日も1つ1つを丁寧に、笑顔の接客を続けているのです。
ワインギャラリーの入り口には、「小樽おもてなし認証 取得施設」が掲げられています。
株式会社HGO「タケダのザンギ」「小樽海鮮あか・あお・きいろ」
今年、「小樽おもてなし認証」を取得した企業のなかでも、一番若く、元気な企業ともいえる株式会社HGO。現在、堺町通り沿いで4店舗を経営するなか、「タケダのザンギ」と「小樽海鮮あか・あお・きいろ」の2店舗が、このたび認証を取得しました。
店舗統括マネージャーの宮川 亜里子さんは、「私が入社した3年前は従業員3人で、まだかけ出しの企業。現在は30人規模に増えましたが、まだまだ組織化が課題です。でも、エネルギーのかたまりのような社長の感性で、スタッフはみな濃度の濃い落とし込みができています」と話します。
「小樽おもてなし認証」に取り組むなかで、元々創業時からあった「行動基準」を、よりしっかりとスタッフに伝えてきたという株式会社HGO。小樽おもてなし認証主催の研修に参加しては、スタッフ間でお互いに共有しながら、おもてなしについて学びを深めてきました。
6月から「タケダのザンギ」店長となった西村 ひかるさんと、「小樽海鮮あか・あお・きいろ」店長の福良 昌也さんは、ともに入社1年目です。西村さんは現在23歳、福良さんは25歳という、本当に若い店長のお二人。しかし、二人とも「社長の熱い想いに賛同して入社したので、おもてなしもすんなりと取り組めています」とのこと。
さらに、「今、目の前にいる人だけではなく、いない人のことも想像して、事前に準備をしています」という西村さん。具体的にはどんなことをしているんですか?と尋ねたところ、「たとえば、耳の聞こえないお客さまがいらしたら・・・ということを事前に想像して、準備をしておくんです。それがおもてなしだと思うので…」と素敵な笑顔で答えてくれました。
福良さんからは、「お客さま目線を持つようにしています。接客時は立っていますが、座った時にお客さまの目線ではどう見えているか?ということを常に意識して確認しているんです!」との言葉が。若いスタッフの多い、元気な印象の2店舗ですが、しっかりと自社の「行動基準」を胸に、自分たちらしい「おもてなし」を考え、実行していることがわかりました。
最後に、福良さんが「ここがゴールではありません。さらに気を引き締めて、みんなで頑張っていこうという機運が高まっています」と教えてくれました。
こんな素敵な企業、素敵なお店のスタッフの熱意が、さらに「小樽全体のおもてなし」に広がっていくことを期待してやみません。