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明治時代、最盛期を迎えたニシン漁は、昭和に入ると一気に衰退しました。しかし、再びニシンが戻ってきています。じつはそこには、「系群」という要素が大きく関わっていたのです。かつてのニシンと、今戻ってきているニシンでは系統が違うのです。その実態を、北海道立総合研究機構中央水産試験場の瀧谷明朗さんにうかがいました。
小樽・余市のニシン研究
1897(明日30)年には97万トンもの漁獲量を誇っていたニシン、1955年にはほとんど獲れなくなった時代を迎えました。しかし、ここ数年はまた大群が押し寄せ、海面が白子で覆われるかつての「群来(くき)」が戻っています。人工授精の稚魚を放流したり、漁獲制限などがこの結果に結びついていますが、最新の研究によると、明治と現在では小樽・余市の海に来ているニシンは系統が違っていることがわかってきました。
ニシンには7つの「系群」があった
明治の群来でみられたニシンは「春ニシン」と呼ばれていて、かつてはその1つの群れがすべてだと考えられていました。ところが1950年代に幻の魚と呼ばれるほど減少した際に、春ニシンとは別の特徴をもついくつかの小規模な地域群がいることも明らかになってきました。そうした群れを「系群」といいますが、明治から昭和初期にかけてのニシンは「北海道サハリン系群」で、ここ10年ほどで増えているニシンが「石狩湾系群」という違う特徴をもっていることがわかってきました。さらに調査は進み、今では7つの系群に分けることができます。
道立総合研究機構水産研究本部は2002年〜15年に、道内を中心に、東北、サハリン41海域で計3806個体のサンプルを採取して調査し、7つの系群の特徴が判明しました。遺伝的な特徴をグループ化すると、産卵の場所や時期、回遊ルートなどが共通しました。
①北海道・サハリン系群
日本海からオホーツク海や太平洋まで広域を回遊。
②石狩湾系群
石狩管内を中心に桧山管内から稚内沖まで広がる。
③桧山・津軽海峡系群
桧山管内から青森県や宮古湾まで道南一帯に生息。
④オホーツク湖沼性系群
サロマ湖や能取湖などに生息。
⑤道東湖沼性系群
釧路沖や風蓮湖などを回遊。
⑥苫小牧系群
胆振管内の白老沖から日高えりも岬に広がる。
⑦湧洞沼系群
十勝管内湧洞沼や大樹沖を回遊。
産卵期の違いで系群を判別
系群によって産卵期が違うことが分かっています。これを利用した調査によって、どの系群のニシンが来ているかを判別します。石狩湾系群は2〜3月を中心に4月中旬くらいまで産卵に来る可能性があります。また、北海道・サハリン系群は主に4〜5月産卵に来ます。また、どちらの群系のニシンも産卵期の始めに高齢の大型が来て、次第に若い小型へと変わっていきます。
積丹半島を中心に東西で分かれる系群
興味深いのは小樽・余市に来る北海道・サハリン系群と石狩湾系群が、積丹半島の東海岸と西海岸でちょうど分かれていることがありました。2019年4月13日の調査では、西海岸の泊村で獲れたニシンは産卵を終えた石狩湾系群で、東海岸の古平町で獲れたニシンは産卵のために来た北海道・サハリン系群でした。
系群によって背骨の数が違う
魚は遺伝や環境の違いによって、個体の骨の数が違ってきます。ニシンの 石狩湾系群は冬に産卵に来るため、受精卵の経験する水温が低く、孵化までに日数がかかります。そのため、卵の中の仔魚がゆっくり成長するため脊椎骨(いわゆる背骨)は多くなり、逆に春に産卵に来る北海道・サハリン系群は、受精卵の経験する水温が高いために孵化までの日数が短くなるため脊椎骨数が少なくなります。 ニシンは54本か55本が多く、群系によってその比率が違います。これを観測して平均値をとると、泊村と古平町の群れの脊椎骨が大きく違っているそうです。
ニシン特有の産卵
幻の魚が蘇っている要因に、他の魚にはないニシン特有の一面があります。通常、魚が産卵をする時はつがいになって行いますが、ニシンはつがいにはなりません。オス全体とメス全体とによって産卵が行われます。まず、オスが浅瀬で海藻に精液をかけ、その後にメスが卵を産みつけるのです。オスとメスのすべての組み合わせで産卵することになり、このような産卵方法によって遺伝的な“多様性”が大幅に増大することで、太古の昔から絶滅せずに生き残り続ける生命力の源になっていると考えられています。
年々、復活のきざしが見えている群来。運が良ければJRの車両内から見かける例もあるようです。チャンスは明け方。運試ししてみるのもいいかもしれませんね。