project
おたるの通りを好き勝手に深堀りするこの記事。
まだ2回目ということもあるが、実は、今回歩く通りはだいぶ前から決めていた。
その名も『静屋通り(しずやどおり)』。
名前を聞いてもピンとこない人もいるかもしれない。
でも小樽に住んでいるならきっと一度は歩いたことがあるはず。
国道5号線の1本海側、小樽市民御用達の商業ビル、長崎屋が面している通りだ。
通りの由来は、明治時代、北海道開拓使の役人だった北垣国道の屋号「静屋(せいおく)」。
屋号とは、同じ苗字の別の家族を判別できるようにするための呼び名のこと。
北垣は、同じく北海道開拓使の役人だった榎本武揚とともに現在の小樽駅周辺の土地を買い上げ、これにより2人の屋号「静屋」と「梁川(りょうせん)」が通りの名前として呼ばれるようになった。

緑の線が静屋通り、赤の線は小樽駅前から運河へと延びる中央通りだ。
「静屋通」の文字が見える位置は今と同じ。
ただ長さは現在と異なり、この頃の静屋通りは現在の梁川通りまで延びていたようだ。
そんな静屋通りだが多くの人は「ただの通り道」というイメージが強いのではないだろうか。
通る機会ははそこそこあるけど遊ぶ場所ではなさそう。
でもそんな印象の通りこそ、深堀りしたい!
という訳で誰もがよく知る静屋通りを歩いてみた。
ここはコーヒーの沼、あるいは森
さっそく花園方面から小樽駅に向かって歩いていこう。
十字路の角に白い壁の緑のアクセントがかわいいお店が見えてくる。
小樽珈琲香房さんだ。

足元にもちっちゃいWelcomeを発見。
ドアを開ける前から心の琴線に刺さってしまう。

店長の遠藤由里子さんは小樽出身。
以前は東京の国税局で働いていたが鎌倉のコーヒーショップでの修行を経て、2024年1月にお店をオープンした。

お店のこだわりポイントを聞いてみると、
「んー...微粉ですかね?」
ビフン...って何だ?
微粉とはコーヒー豆を挽いたときにできる細かな粉のこと。
通常は挽いた豆をそのままドリップすることが多いのだが、小樽珈琲香房さんではえぐ味の元になるという理由で微粉を徹底的に取り除いている。

「お店で飲むコーヒーも、販売してるドリップパックも全てふるいにかけて微粉を取り除いているんです。ここまでやることは他ではあまりないと思います!」
そんな味にこだわる遠藤さんのおすすめが「市外局番シリーズ」。

小樽・余市・札幌・北見・ふらのの5種類があり、それぞれの街をイメージしたコーヒーが楽しめる。
中でも「余市0135ブレンド」はウイスキーでコーヒーを香り付けしていて、複雑に織り重なった風味が特徴的。

「ウイスキーとコーヒーの香りを併せて楽しめるので、コアなファンになってくれるお客さんも多くて...たぶん好きな人はめちゃくちゃハマります笑」
メニューをさらに見てみると市外局番シリーズ以外にも気になるものがいろいろ。

表に出てきているけど裏メニューらしい。

こちらは正直過ぎるカフェラテ。気になったので注文してみた。
できるかどうかは日によりけりらしいが今日は果たして...?

なんとアザラシが登場!とってもかわいい。
日によってはこれがクマになったりネコになったりするんだとか。
一緒にいただいた季節のスイーツは、カッサータという硬いアイスケーキのようなイタリアのデザート。甘すぎない爽やかな味でカフェラテとの相性も抜群だ。
季節のスイーツは気分次第で変更するとのことなので、何があるかは行ってみてのお楽しみ。
ちなみに小樽珈琲香房さんは店内がそれはそれはかわいいのでぜひ見てほしい!

よく見ればあちらこちらにムーミングッズだらけ。
探していると「こんなところにも!」と楽しくなってくる。
グッズのチョイスやレイアウトは季節や気分で変えているとのこと。
ちなみに僕のおすすめスポットは窓際の席。

小さな時計がたまらなくかわいい。


コーヒー豆やドライフルーツも販売しているので、お家コーヒー派の人はこちらも見てみてはどうだろう。
「お客さんの好みを聞いて豆を紹介する時間が仕事をしてる中でも一番好きですね。美味しかったよー!ってまた買いに来てくれたときはすごい嬉しいです。」
本格派も、気軽に楽しみたいという人も。
コーヒーとスイーツ、そして木陰のような居心地についつい長居してしまうこと間違いなしだ。
小樽珈琲香房
小樽市稲穂2丁目16-11
営業時間 9:00~17:00 木曜定休
ホームページ https://otaru-coffee-works.jimdosite.com/
その日をちょっと特別にするひと箱
小樽珈琲香房さんを出てさらに静屋通りを進んでいくと、長崎屋が見えてきた。
長崎屋の静屋通り側の出入り口を出て、すぐのところにあるのが「小樽カヌレ蔵」さんだ。

カヌレはフランス・ボルドー地方の郷土菓子。
数年前にはブームにもなっていたので名前こそ有名だが、小樽市内で見かける機会は多くないかもしれない。
そんな小樽で初のカヌレ専門店として2023年8月にオープンしたのがこちらのお店だ。
代表取締役の松嶋千鶴さんにお話を聞いた。
「元々は全然違う業界で働いていたんですけど、ご縁があって今は販売や経理を主に担当しています。」
小樽出身だと話す松嶋さん。
「実はこの仕事をするまでカヌレを食べたことはなかったんです。笑
食べてみると思ってたよりずっとおいしくて、こんなに種類があるんだということも知って、いろいろ発見でした。
小樽ではカヌレを食べる機会が少ないので、あまり食べたことがないという人にこそぜひ一度食べてみてほしいですね。」
販売しているカヌレは全て、フランスで修行したシェフがお店で手作りしているという。

ショーケースに並んだカヌレは、お菓子というより「スイーツ」と呼びたくなるような華やかな見た目をしている。
こだわりポイントを聞くと、
「カヌレを焼く時に本来はシリコン型を使うんですけど、うちはブリキ型を使っています。
ブリキ型は焼いた後に外れにくくて手間がかかるのですが、油がしっかり回って水分もしっかり蒸発するので、シリコン型よりカリッと仕上がるんです」
「あとは一般的なサイズだと1個でお腹いっぱいになってしまうこともあるので、いくつも味を楽しめるようにちょっと小さめに作っています!」

さらにはカヌレだけでなく、焼き菓子や冷凍パンも販売している。
こちらも全て手作りとのこと。

非常に残念なことにこの日は売り切れてしまっていて写真には写っていないのだが、個人的に特にラム肉パンが好き。
ラムの肉肉しさにトマトのアクセントがピッタリでめちゃくちゃおすすめなので、お見かけしたらぜひ!
ここでカヌレ購入タイム。
4個入りと8個入りがあり自分の好きなカヌレを選ぶことができる。
今回は4個入りにしたが、いざ選ぶとなるとどれにしようか迷う迷う。
せっかくなので、松嶋さんの個人的ベストカヌレを聞いてみると、
「んー...ちょっと1つには絞れないので、3つでもいいですか?笑」
ということで松嶋さんいち推しのビターキャラメル、カカオ・グリュエ、ダークラムを購入。
残る1枠にはブルーベリーを使ったセイグルが内定した。
カヌレを箱に詰めてもらっている間、香ばしくて温かな甘い匂いがお店の中に広がってわくわく感を刺激される。
早く帰って食べよう。

さっそく箱を開けると...あれ、カカオの上下が逆じゃない?
実はこれはわざと逆さになっているのだ。
カカオ・グリュエは、生地にカカオニブ(カカオ豆をローストして皮を剥いで細かく砕いたもの)が練り込まれている。
下の面をあえて上に向けることで、生地の違いが見てわかるようになっているのだ。
最後に、松嶋さんにこれからの目標についても聞いてみた。
「通りの風景に溶け込んでしまっているのか、今でも「こんなお店ができたんだ!」と言われちゃうこともあります。笑
でもこの2年でリピーターの方やプレゼント用に買ってくれるお客さんとかも増えてきて...。いつか「小樽といえば小樽カヌレ蔵」と言われるくらいになりたいですね」

選んで楽しく、食べてもおいしい。
自分へのご褒美やちょっとしたプレゼントにもぴったりなカヌレ、
ぜひ一度足を運んでみて。
小樽カヌレ蔵
小樽市稲穂2丁目12-5
TEL:080-9614-8511
営業時間 11:00〜19:00 日曜定休
Instagram @otaru_canele
音を楽しむのが音楽で、音楽を楽しむのは
長崎屋を左手に見ながら静屋通りをさらに進む。
もうそろそろ中央通りかな、というくらいで最後のお店が見えてきた。
「音とこだま」さんだ。

2023年4月にオープンしたこちらのお店は小玉寛章(ひろあき)さん、好(このみ)さんご夫婦が2人で営んでいる。

音とこだまTシャツがよく似合う寛章さんと、最推しだというラーメン系アイドルのTシャツを着てきてくれた好さん。
店内にはたくさんのレコードが並び、奥のカウンターではお酒やコーヒー、ちょっとしたフードも頼むことができる。
あまり詳しくはないけれど、レコード屋さんでお酒が飲めるのって珍しくないですか?
「実は店をやろうってなった一番最初の頃、15年くらい前にイメージしていたのはレコード屋じゃないんです」

「音楽が中心にあってみんなが集まる場所を作りたいなってのがはじまりで、その中にお酒とかコーヒーとかレコードがあればもっと楽しいんじゃないかなって。
だから元々考えてたのは、音楽を楽しむ居酒屋みたいな感じでした」
音とこだまさんはお酒が飲めるレコード屋さん、ではなく、
お酒が飲めてレコードも買えちゃうお店、なのだ。
昼はゆったり音楽を楽しめて、夜はたびたびイベントを開催している。
そのほとんどはお店が主催しているわけじゃなく、音楽好きなお客さんがここでイベントをやりたいと企画してくるのだそう。
「やっぱりイベントのときが一番楽しい時間ですね。みんなが音楽を聴いて盛り上がったり、お酒を飲んだり、色んな話をしてガハガハ笑ったり...。そういう場面を見てると、この場所を作って本当に良かったなって思います。」

壁に貼られた大量のフライヤーが音楽への愛を物語っている。

「こっちは常連さんが毎月やってくれているイベントのフライヤーです。これも全部手書きで描いてるんですよ。」
置いているお酒にもちょっとしたこだわりが。2人の出身地である東北のお酒やおつまみがメニューに並ぶ。

いち推しは、岩手県奥州市のコーヒー屋さんから仕入れた豆を使ったコーヒー焼酎。
「岩手に行ったときに入ったお店で偶然コーヒー屋さんの社長が隣に座ってて、『コーヒー焼酎はうまいぞ』という話になったのがきっかけで。」
なんと豆はコーヒー用ではなくコーヒー焼酎用に用意してもらってるんだとか。
「全部の豆を試してみて、自分たちがイメージする味の豆をそこから作ってもらってます。」
好きなところにはとことんこだわっちゃう姿勢が最高に素敵だ。
お店の奥に飾っている絵も特別な一枚。
寛章さんのお友達のお父さんが描いたものらしい。

「元々お世話になってる方で絵も書く方なんですけど、これとは違う絵がサンモールに飾られてたときに、良い絵だねって話をしてたら『じゃあ置いとくかい?』って言ってくれて。」
多くの人たちに愛される音とこだまさん。
お話を聞きながらずっと感じていたことがある。
2人ともガツガツ感がまっったく無い。
「たくさんお店に来てほしい!」とか「この音楽を聴いてみて!」みたいな…。いわゆる押しの強さをこれっぽっちも感じないのだ。
「お店を大きくしたいみたいな考えは特に無くて…。音楽が中心にあって人が集う場所を作りたいってのが一番の目標にあって、それは今も変わっていないんです。
今いるこの時間を楽しみながら、お店のことはゆっくり、じわっと知っていってもらえたら良いかなって。」
2人のこの和やかな人間味が、この店の味を引き立てているのだ。

お話を聞いてみて、まるでキャンプファイアみたいなお店だなと思った。
音楽を愛してやまない大人たちが、ひとり、またひとりと集まってくる。
明るい炎は音楽で、みんなが輪になり明かりを囲む。
飲んで話して満たされて、炎が鎮まる頃にまた日常へと帰っていく。
静屋通りを照らす音楽の明るさはきっと遠くからでもよく見えるだろう。
その賑わいが気になったのなら覗いてみるのも面白いかもしれない。
音とこだま
小樽市稲穂2-10-5 1F
営業時間 13:00~21:00 水木定休
BASEショップ https://ototokodama.theshop.jp/
その気まぐれに用がある
今回お邪魔した3つのお店。
行ったことはないけれど、見たことあるという人もいるんじゃないだろうか。
もしかすると、気になってはいたけど行くきっかけが無かっただけという人もいるかもしれない。
観光地のそばに住むと「いつでも行けるな」と思って逆に行かないまま、みたいな。
そんな時には「気まぐれ」が役に立つ。
いつもは通り過ぎるだけの道を今日だけはなんとなく寄り道をしてみる。
自分の直感と気分に任せて、開けたことのないドアに手をかけてみる。
静谷通りは、そんなちょっとした気まぐれを起こすのにうってつけの通りだった。
ぜひ一度お試しあれ。
ここで今回の一句
「寄り道で 色づくいつもの 通り道」

小樽通編集部 小竹多聞
広島生まれ愛知育ち。
北海道の雪は好きだけど寒さには弱い。小樽での楽しみは行きたい店リストをコンプリートすること(158/265軒)
読者プレゼント企画のお知らせ
アンケートにご回答いただくと、抽選で計3名様に以下の品をプレゼント!
・余市観光協会セレクト 余市町産品4点セット
アンケートのご回答はこちらから
▷ Webマガジン小樽通2025年秋号 アンケート回答
(回答期限 2025年10月31日)

