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【小樽通2025夏号】これもおもてなし♪籔半・宏楽園・運河クルーズ・大正硝子[おもてなし認証バナシ]

2025.06.27

 2024年、全国で初めて、地域独自の「小樽おもてなし認証」制度が誕生。その栄えある第1回目の認証を受けた小樽市内の企業や団体、店舗にインタビューを行い、その業種ならでは、その店ならではの「おもてなし」について語ってもらいます。

※記事の内容は、配信時の情報に基づきます。 最新情報は、各施設へお問い合わせください。



小樽・蕎麦屋・籔半

おもてなしの極意がいっぱい「小樽 蕎麦屋 籔半」

 1954年創業の老舗蕎麦屋である籔半。石蔵を活用したシックで趣ある店舗は、多くの市民や国内外の観光客に愛されており、その空間でいただく美味しい蕎麦を求めたお客さまで、連日賑わいを見せています。

 現在、店を切り盛りするのは、女将の小川原 ひとみさんと若女将の河野 明香さん。籔半二代目の故・小川原 格氏が小樽と蕎麦屋にかけた情熱を受け、日々母娘でお店に立っています。「20代は京都の料亭で修行し、30歳で籔半に入りました。戻ってからいろいろと大変でしたが、今の籔半があるのはスタッフのおかげ。特に、父がいる当時から働いているスタッフは、本当にありがたい存在です」と語る明香さん。

 そんな頼れるスタッフの一人、ホール主任の久保田 小百合さんは、明香さん曰く「気遣いが素晴らしい」そう。「仕事に厳しい分、ミスがありません。なにより、父の想いをしっかり受け止めているスタッフなので、母も私も本当に頼りにしています」とのこと。もう一人のベテランスタッフ北島さんに対しても「お子さんからご年配の方まで、その方に合った接客を自然にしています。子どもさんをあやしたり、接客のスピードをゆっくりにしたり。気づく力が敏感なんですよ」と教えてくれました。

ホール内を機敏に動き回る久保田さん。忙しいなかでも、各テーブルのお客さまに目線を配り、“今、お客さまが求めていること”にすぐに気づいて反応します。

 籔半では、会話も大切なおもてなしのうち。メニューに対しての説明も多いため、「忙しすぎると、スタッフも良い接客ができません。少し余裕があるとスタッフも落ち着き、それが良い接客に繋がると思っています」と語る明香さん。たとえば、籔半の「かしわ蕎麦」は親鳥を使っています。「若鶏と違い肉質は硬いですが、出汁が出るんです。注文を受けた際は、硬い肉ですが大丈夫ですか?とお聞きしています。同じようにいろいろと説明・確認をしていても、時にはクレームも出ます。ただ、思っていても言わない方もいる中、勇気を出して伝えてくれたクレームです。ちゃんと受け止めて、二度とそのようなことがないよう、報告・連絡・相談を行い、しっかり共有します」とのこと。

久保田さんは、コロナ禍の時間を利用し「唎酒師」の資格も取得。日々の仕事に、さらにやりがいをプラスした久保田さんの接客は、お酒好きのお客さまからも大変喜ばれています。

 また、籔半では、「アナログ感」も大切にしています。「券売機やタブレット注文など、機械は便利なのでしょうが、1対1でお客さまとお話をしたいんです。注文を取りにいくからこそ、“取り皿が必要”とか“お子さんのご注文は先に”などの情報を得ることもできます」とニッコリ。「新しいスタッフや学生アルバイトさんには、間違った日本語を使わないよう指導することもあります。また、京都の料亭にいた当時に学んだことを生かし"籔半を世界に通用する店にする"という目標に向かってスタッフ一同取り組んでいます。。

ベジタリアンやヴィーガン、アレルギーをお持ちの海外の方のために、表記もしっかりと行っています。

 籔半には、すでに海外からのリピーターも増えています。「海外の方にも、日本の方と同じような接客ができるよう、ご満足いただけるよう、これからも努力してまいります」と話す若女将の明香さん。日本らしい細やかな気遣いと心通うおもてなしで、これからも多くのファンを魅了していくことでしょう。

若女将・明香さんの美しい着物姿も、とくに海外の方にとっては嬉しいおもてなしの1つでしょう。

 



おたる宏楽園

 「おたる宏楽園」で実践されているコト

 1967年創業の老舗旅館「おたる宏楽園」。2014年、火事によって施設が全焼するという苦難を乗り越え、2016年に、見事旅館を再建。スタッフも一新して、新たなスタートを切りました。

 お話を伺った専務取締役の米山 佳宏さんは、かつて箱根の有名旅館で修行をされていたそうです。また、甥にあたる若旦那の米山 忠宏さんは、大学卒業後、伊豆の老舗旅館に就職し経験を積みました。そんな二人の知見や経験による学びを取り入れ、「設備」「料理」「接客」のそれぞれにおいて100%を目指している「宏楽園」は、従前のサービスに新しい感性を盛り込み、若い方からご高齢の方まで幅広い層のお客さまに愛されています。

 「箱根では、ひと言の伝え方の洗練さを学びました」という米山専務。たとえば、私たちが普段何気なく口にする「ごゆっくりどうぞ」という言葉は、「箱根の旅館で“伝説の仲居さん”と呼ばれている方から「ごゆっくりどうぞは省略形で、丁寧とはいえません。何をごゆっくりなのか、きちんとお伝えして」と言われてハッとしました」と言います。それからは、「ごゆっくりお過ごしください」「ごゆっくりお食事をお楽しみください」など、省略形ではなく、きちんとお声がけをしているそうです。

 また、「従業員の満足度が接客に伝わる」という想いもあり、スタッフをとても大事にしており、コロナ禍も1人も辞めさせることはありませんでした。「社員やお掃除を担当するパートさんなども含めると、140人くらいの従業員が働き続けてくれています。お掃除の方にも、“ここからおもてなしが始まりますから”とお伝えして、掃除を担当してもらっています」とのこと。それでも、各持ち場で何か失敗をしてしまった際は速やかに共有し、同じ失敗をしないためにシステムに落とし込むことを徹底しているそうです。

  「ブラックアウトの時は、ロビーに食事を並べ、ビュッフェスタイルで無料提供しました。飛行機は運航するとわかり、私が運転して新千歳空港まで送迎をしました。その時の海外からのお客さまが、リピーターとしてまたお越しくださった時は本当に嬉しかったです。“お客さま目線で、できる限りの対応を”というおもてなしが伝わったんだなと感じました」と語る米山専務。このお話を伺い、「おもてなし」というのは、ピンチをチャンスにも変えてくれるという事を改めて教えていただきました。

お見送りの際は、「ありがとうございました」と過去形にせず、「ありがとうございます」と現在形に。「これからも、お客さまとのご縁が続くよう、過去形にはいたしません。これも箱根で教わったことです」と語る米山専務。

雪降る中でも、おだやかな笑顔でお見送りされている姿が印象的でした。



小樽運河クルーズ

 愛を持っておもてなし「小樽運河クルーズ」

 水面に近い船からの目線で小樽運河や周辺の景色を眺めつつ、ゆったりと約40分のクルーズを楽しめる「小樽運河クルーズ」。国内外の観光客はもちろん、小樽市民も新鮮な気持ちで楽しめる、老若男女に大人気のアクティビティです。

 「とにかく小樽観光を楽しんでいただきたい!という想いで、日々お客さまをお迎えしています」と語るのは、小樽運河クルーズを運営する合同会社小樽カナルボートの業務・総務課 課長補佐 笹谷 明菜さん。操船とガイドを一人で担当する「キャプテン」10名のほか、受付や船へのご案内業務など25名のスタッフがいるそうですが、なんとそのうち2組はご夫婦スタッフなんだそう! 「70代の男性スタッフと60代女性スタッフも元気に働いています。もう1組の女性スタッフ(キャプテン)は、現在、育児休業中。さらに、もう一人の女性キャプテンも育休中ですし、社長の人柄もあって会社自体がアットホームな雰囲気なんです」とニッコリ。そのお話を聞くだけで、働きやすい職場なんだということがよくわかります。

 そんな社風もあり、おもてなしは「親しみやすさ」を大切にしているそう。「なにより思い出に残るよう、小樽らしいおもてなしを心掛けています。キャプテンたちは小樽の歴史や文化を中心にガイドしますが、それぞれアレンジを聞かせながら、親しみやすいガイドでクルーズを楽しんでもらいたいです」と話す笹谷さん。ニュージーランド出身のキャプテン・ブラッドさんは自然が好きなので、「運河周辺の鳥など、生き物の話」をしたり、ナイトクルーズでは「星や月の話」をしたり…。同じ40分間のクルーズでも、キャプテンや時間によってガイドの内容は少しずつ違うそうです。

 海外からのお客さまも多いなか、船には多言語の音声ガイダンスツールを常備。英語・中国語・韓国語の案内をイヤホン(無料)で聞くことができます。「残念ながら、全スタッフが外国語対応できるわけではないので、乗船待ちの時間などはスマホアプリなどを使いながら、身振り手振りでコミュニケーションを取っています。夏には、日本のアニメキャラクターTシャツを着ている海外の方と盛り上がりました(笑)」と笹谷さん。

 出航待ちのお客さまとのトークは地元感満載だそうで、「雑談に近いかもしれません。それでも、朝、チケットを購入いただいた方が夕方戻ってきて、オススメされた〇〇に行ってきたよ~なんて言われると、本当に嬉しいです」と目を輝かせて教えてくれました。

 冬の時期は、社長自ら小樽運河・中央橋の雪かきをしたり、夏は中央橋で座り込んでいた熱中症気味の方を介抱し救急車を呼んだりと、クルーズに直接関係のないことも進んで行っています。そんな業務以外の「おもてなし」の1つが、チケット売り場に飾ってある「小樽運河のジオラマ」。70代の男性スタッフが自ら作って、持ってきてくれたそうですよ!

「スタッフの力作なんです~!」と笹谷さんが教えてくれた、小樽運河のジオラマ。乗船を待っているお客さま達の目を楽しませています。

  

冬は雪対策のホロがつき、シートヒーターも入っているので、お尻があたたかいクルーズ船。それでも、「しっかり、まかなって(あたたかく身支度して)乗ってくださいね」と北海道弁でお伝えしているそうです

 「愛を持っておもてなし」を行っている、小樽運河クルーズ。小樽市民割があるのも、私たち、小樽市民への「おもてなし」ですね。



大正硝子館の取り組み

商店街の道案内役「大正硝子館 本店」

 一方通行になっている堺町通りの「入口」側に位置する、大正硝子館 本店。小樽市指定歴史的建造物であり、明治39年建築の名取高三郎商店を利用した「本店」は、時代を感じる趣ある建物ときらめく硝子の魅力が相まって、いつも多くの観光客でにぎわっています。

 そんな中、店舗責任者である三浦 正嗣さんが意識しているというのが、「商店街の道案内役である」ということ。「小樽駅や運河側から来るお客さまは、この先どんなお店があるんだろう?という気持ちで、当店に入って来られます。硝子を買う目的がなくてもふらっと立ち寄られますし、実際に、小樽の観光情報や他のお店のことを聞かれることもあります。そんな時、道案内役として、自分たちの店以外もご案内ができるよう心がけています」とのこと。

 また、「お店の居心地の良さ」も大切にしているそうで、「グラスなどを手に取り、戻すときにカチャンという硝子の音がすると、お客さまも緊張してしまうと思うんです。その緊張感を少しでも緩和したいと考え、店内のBGMを大きめにしています」と語る三浦さん。BGMはオルゴール音楽なので、決してうるさくはないですが、確かに言われてみるとBGM音は大きめです。硝子の店ならではの、「音」によるこんな気づかいもあるのだと、改めておもてなしの深さを感じました。

 そんな店内は、あまり広くないこともあり、「小規模な店内なので、お客さまとの距離が近いんです。だからこそ、こちらから押し売りするようなことはせず、お客さまが何かを聞きたいというタイミングを感じ取り、必要な時にお声がけするようにしています」と語る三浦さん。そんなちょうど良い距離感を大切にしているからこそ、「お会計時は、コミュニケーションを意識しています。入社2年目の若いスタッフも、会計が終わった後にこの後の小樽観光に繋がるような話をしていて、お客さまと良いコミュニケーションを取っているなと感心しています」とのこと。会計が終わったから接客が終了…ではなく、お客さまがこの後も小樽を楽しめるように意識してお声がけをしているということに、本当の意味での「おもてなし」を感じました。

 「小樽おもてなし認証」を受けてからも、日本ホスピタリティ推進協会の特任講師・角 俊英先生のセミナーに参加して、学びを深めているという三浦さん。「セミナーを聞いて、これまでは“おもてなし”についてふわっとしていたなと感じました。セミナー後は、「こういう店にしたいね」「こういうことを大切にしたいね」としっかり話し合うことに繋がり、スタッフ間の共通認識を持てたことが効果的でした」と語ります。

 「大正硝子館 本店」は、自分の店のおもてなしにプラスし、堺町通りの玄関口として、さらには小樽観光の案内所の役割も担う意識で「おもてなし」を深めています。こんなお店が小樽に増えていけば、もっともっと、小樽に来られたお客さまの笑顔が増えるのだろうな…と感じました。

やわらかな笑顔が印象的な三浦さん。他店をご紹介したものの、そのあと戻ってきたお客さまから「一緒に結婚祝いを選んでくれませんか?」と言われて、とても嬉しかったですと話してくれました。



お客様と一緒に感動を「大正硝子 とんぼ玉館」

 おこばち川沿いにある「大正硝子館 とんぼ玉館」は、吹きガラスよりも手軽にできる硝子のバーナーワーク「とんぼ玉」づくりが体験できる、小樽で初めての「とんぼ玉」専門店です。

 店長の木村 麻知子さんは、入社して12年。毎日、たくさんのとんぼ玉を作り、体験に携わるなか、大切にしているのは「お客さまの初めての感動を、一緒に感動する」ということだそう。「とんぼ玉を作ることは、私たちにとっては日常でも、お客さまにとっては初めての感動です。その想いを同じ気持ちで一緒に感動できるかが大切だと思っています」とのこと。

タッフのとんぼ玉づくりをサポートする木村さん(写真右)。簡単な制作体験とはいえ、ケガをしないよう気を配るのも大切です。

 じつは、常連さんも多いそうで、「札幌から来た幼稚園の女の子は、小学校高学年になった今も年2回は来店してとんぼ玉を作っていきます。これまで作ったとんぼ玉を、大切に宝箱に保管している写真も見せてくれました。他にも、札幌の小学生の女の子が、中学や高校になってからも友達を連れて来てくれています。最初の体験がとても楽しかったことが、その後に繋がると思うと、やっぱり1回目は大事だと実感します」と語る木村さん。

 また、一緒にとんぼ玉体験したことがきっかけで付き合うことになったカップルは、その後結婚しご夫婦に。そのご夫婦は、十年以上前に作ったとんぼ玉をチョーカーにして毎日付けているそうで、当然、紐の部分がボロボロになってしまうのですが、それを取り換えに毎年来てくれるそうです。さらに最近は、海外のリピーターも増えていると聞き驚きました。買ったものでは得られない感動や思い出が、とんぼ玉館では生まれていることを感じます。

 「でも、前にも来たことを言わない方も多いんです。こちらから気づいて“来てくださって、ありがとうございます”とお声がけすると、とても喜ばれます。以前、ランプを購入したお客さまが、その後、お手紙もくださって。何年越しにまたご来店いただいた時は、あの手紙の方だ!と気づいてお声がけしました。私も本当に嬉しかったです」と木村さん。

 以前、バスガイドをされていたという木村さんは、「バスガイド時代があるから、お客さまがどんな気持ちで旅行に来てくれているかがわかるんです。だからこそ、この店に来てよかったな~と思ってもらえるようなおもてなしを心掛けています!」と話してくれました。パートさんを含め6名いるスタッフに対し、「こういうことをされたら、お客さんも気持ちいいよね!」ということを熱く語っているという木村さん。「おもてなしというのは、注意してやってもらうことではないと思っています。私自身の想いを熱く語ることで、スタッフにも感じてほしいし、それぞれの個性を見ながら、1人1人アドバイスしています」と話してくれました。一生の思い出にもなる「とんぼ玉」を、一緒に感動しながら作り上げる・・・まさに、マニュアルではできない「おもてなし」だと実感しました。

サポートがあるので、3歳からでも体験可能だそう!うまくできずに泣いてしまうお子さんもいるそうですが、そこは優しくサポートして一緒に作り上げます!



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ライター 田口 智子
1974年札幌生まれ。1996年に小樽市職員。観光振興室勤務などを経て、2007年にFMおたるに入社。2023年11月からフリーのパーソナリティー、ライターとして活動している。小樽の街歩きガイドブック『小樽さんぽ』『小樽さんぽ2』『とっておき!小樽さんぽ』などの著書がある。



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2025年6月28日(土)配信

  

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