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(取材・執筆/田口智子)
今年、全国で初めて、地域独自の「小樽おもてなし認証」制度が誕生。その栄えある第1回目の認証を受けた小樽市内の企業や団体、店舗にインタビューを行い、その業種ならでは、その店ならではの「おもてなし」について語ってもらいます。また、今回は「小樽独自のおもてなし規格認証制度」をつくるまでの苦労など、運営側それぞれの想いについてもインタビューをしました。
スタジオ フォトス
観光客はもちろん、地元・小樽や札幌のお客さまも多い、写真館「スタジオ フォトス」。フォトグラファーであり、社長の濱田 剛さんと、妻でアシスタントの佳江さん、次男の恭輔さん(現在は、姉妹店NORTH札幌店主)が家族で営むスタジオです。じつは、濱田さんは、「小樽おもてなし認証制度」を作り上げた、小樽観光協会・おもてなし力向上委員会プロジェクトのリーダーでもあります。初めての制度を一から作り上げる苦労と共に、自分の店も客観的な調査を受けるという二つの立場は大変だったそうですが、その苦労のなかで得たものは、非常に大きかったようです。
小樽の制度ができる5年前、スタジオ フォトスは、2018年にパイオニアグリーンサークル(PGC)主催の写真館に特化したコンテストで、日本一のグランプリを獲得しました。身だしなみや受け応えなどのチェック、覆面調査もあったPGCのコンテストを通して、「改めてお客さまへの対応マニュアルを作り、家族でありながらもしっかりとした会議を行うことで、店が変わりました」と濱田さんは振り返ります。その後、実際にお客さまも増え、売り上げも上がったことで、改めて「おもてなし」の重要さも実感。その実体験が、その後の「小樽おもてなし認証制度」の導入に繋がったのです。
濱田さんは、自社について「フォトスに来ること自体が、エンターテイメントなんです」と語ります。フォトグラファーとして、技術面の向上やトレンドを押さえるのはもちろんですが、七五三などお子さんの写真撮影が多いこともあり、「主人公からすると、写真は目的じゃない」という意識で日々の撮影に臨むのだそう。ビシっと決まった写真だけでなく、撮影中の流れのなかで、いろいろな表情を切り取り、それをスライドショーで「ストーリー」として見せることで、「こんな表情も撮ってたの!?」と、お父さんやお母さんの感動はひとしおなんだそうです。
なかには、「旅行の時しか全員が集まらないから」と、小樽旅行に来たのに合わせて、還暦や喜寿を記念した家族写真を撮影する方や、スタジオを訪れる海外からのお客さまも増えているそう。ホームページを探して、シンガポールから来てくれたご家族は、7歳、3歳、2歳の男の子たちに七五三の着物を着せ、時にはアンパンマンを見せて喜ばせつつ、翻訳機を駆使しながら楽しく撮影。朝に電話が来て、夕方に撮影した対応力も驚きですが、仕上がりもとてもご満足いただけたそうで、その後、シンガポールから嬉しいコメントもあったと教えてくれました。
大型チェーン店とは違う家族経営だからこその臨機応変な対応と、カスタマイズできるサービスは口コミで広がり、現在もリピーターや紹介でのご来店が多いそう。とはいえ、現在は「NORTH札幌」の店主となった次男の恭輔さんからも、「当たり前と思っている慣習がダメだと指摘されました。「おもてなし」を意識することで、今まで気づくことすらできなかったことに、気づくことができました」と語る濱田さん。家族ならではの良さもありながら、家族経営に甘んじることなく、「おもてなし認証制度」のような客観的な視点を持って学び続けることで、「スタジオ フォトス」はこれからも進化を続けていきそうです。
「小樽おもてなし認証制度」ができるまで
PGC主催のコンテストを通して、改めて自社の接客マニュアルを整え、おもてなしを見直したことで、お客さまと売り上げが増えた「スタジオ フォトス」。濱田さんがコロナ禍に、このコンテストの話を小樽観光協会の委員会メンバーに話したことから、「小樽おもてなし認証制度」への取り組みが始まりました。
今は観光のお客さまはいないけれど、「いつかまた、お客さまが小樽に来ていただいた時のために、今できることをしよう!」とメンバーの心は決まり、濱田さんをリーダーとしてプロジェクトは動き出します。
しかし、おもてなし認証を地域独自の制度として取り組んでいる自治体はなく、すべてゼロから作らねばなりません。国から派遣された専門家であり、フード&ホスピタリティコーディーネーターの堀田 雅湖さんから制度の概要などを聞いても、最初は何をどうしていいやらと、ぼんやりとしていました。ただ、「市内の皆さんに参加してもらうには、魅力的で有益な制度じゃなければならない」という想いで、具体的な制度の内容を考えていきました。
委員会のメンバーそれぞれが本業を抱えながらの取り組みということもあり、何度もくじけそうになりながらも「小樽を日本一のおもてなしの街にしよう」という想いがありました。その後、堀田さんから日本ホスピタリティ推進協会の特任講師・角 俊英さんを紹介いただき、東京に行って勉強会にも参加。審査表を作ったり、不慣れながら初めて各店の審査もしたりしながら、ついに2024年7月に第1回の認証式を迎えることができました。「3年間、よくここまで来たなというのが本音です」と笑う濱田さん。「これからまた、新たな施設を募集します。参加することによって気づくことがたくさんあるので、うちの店なんか…などと思わずに勇気をだして飛び込んでほしいです」と話してくれました。
「小樽おもてなし認証制度」は、取得するまでの各店での取り組みにおいても、新たな気づきや発見がありますが、認証取得後も各種勉強会に参加できるなど、さらなる「おもてなし力」向上が図れます。観光施設に限らず、街の飲食店や小売店など、どんな施設・店舗でも応募可能です。ぜひ、一緒に「日本一のおもてなしの街・小樽」を目指しませんか?
フード&ホスピタリティコーディネーター 堀田 雅湖さん
「実をいうと、この制度に関わるまで小樽を訪れたことはありませんでした」という堀田さん。「専門家として関わってほしい」と依頼を受けた時には、「小樽は観光先進都市で、集客もできているのに何が課題なのだろう?」と思ったそうです。そんな中、まだコロナ禍だった一昨年の冬、初めて小樽を訪れた際、大きなギャップを感じました。「仕入れたものをそのまま売っているお店が多く、たくさんご購入いただいても、本当に地元・小樽の人たちの経済の循環に繋がっているのだろうか?」と疑問を持ったそうです。
ただ、「コロナ禍の今だからこそ、おもてなしを磨ける。勉強会をやろう!」という、おもてなし力向上委員会プロジェクトの皆さんの熱意は強く、日本ホスピタリティ推進協会の特任講師・角 俊英さんを紹介。その後、「長期戦になるかもしれない。でも、自分たちの認証制度を作ろう」という小樽の委員たちと、Zoomを使いながらも密な勉強会を重ねました。「学びを深めるにつれ、委員の皆さんは“このことを、もっと周りに知らせていく必要がある”と感じていました。自分たちが学ぶだけでは、小樽の街におもてなしは根付かない。繰り返し伝えていくことで、商店や市場など小樽の街全体に機運が広がり、「おもてなし力」の底上げが図れると、懸命に制度作りに取り組んでいました」と当時を振り返ります。
また、「観光客にとって、小樽の街に対する期待が高いからこそ、ちょっとしたマイナスでも良くない印象になってしまうんです。何気ないことでも、丁寧にしていくことが大切なんですよ」という堀田さん。それによって、市民が誇れるような店、市民が買いたい、使いたい店が増えていけば、結果的には「住みよい街」にも繋がります。「おもてなしは、観光客のためだけではありません。街の中に定着していくことが大切です。そして、そんな市民や小樽の文化と接することが、観光客にとっては喜びなんです」とも話してくれました。
「でも、夏にはたくさんの風鈴が飾られ、冬には1つ1つスノーキャンドルを灯す小樽雪あかりの路もありますよね。じつは、こんなに手づくりで頑張っている街って、なかなかないんですよ。これって、本当はすごいおもてなしなんです。でも、小樽の人たちはそこに気づいていないのかもしれませんね・・・」。
当たり前だと思っていたり、義務的にこなしていたりすると見えなくなるからこそ、外部の専門家によるチェックなど、客観的指標でおもてなしを「見える化」することが大切なんだそう。「日本で初めての、地域独自のおもてなし認証制度をつくったことで、小樽はより注目度が上がるでしょう。それによって、より良い接客・おもてなしが増える。最初から満点じゃなくてもいいんです。どんどんと良くなっていけばいい。この制度が、そういう仕組みに強化されていくことを願っています」と語ってくれました。
第1回認証制度取得施設は、さらにおもてなし力を高めるための勉強会を重ねています。次は、どんな施設・お店が認証を受けるのか、市民も大注目です。小樽全体で、「日本一のおもてなしの街」を目指していった先にどんな小樽が待っているのか…市民の一人として楽しみでなりません。
ライター 田口 智子
1974年札幌生まれ。1996年に小樽市職員。観光振興室勤務などを経て、2007年にFMおたるに入社。2023年11月からフリーのパーソナリティー、ライターとして活動している。小樽の街歩きガイドブック『小樽さんぽ』『小樽さんぽ2』『とっておき!小樽さんぽ』などの著書がある。