おたる コラム

水の都・小樽

2022年 02月 24日
フリーライター 盛合将矢

「小樽の水は美味しい」
 小樽で育った私にとって、これは理屈じゃなく、体で感じていました。しかし、環境省が昭和60年に選定した名水百選、平成20年に追加で選ばれた平成の名水百選、そのどちらにも小樽の水は選ばれませんでした。ですが、幾つかの水の物語を聞けば「小樽は水の都である」と言っても過言ではないくらい、魅力に溢れている事に気が付きます。

■美味しい水とは?

 いつの日からか、ミネラルウォーターやウォーターサーバーなど水道水以外を選ぶ人が増えた気がします。私も出張先の水が合わないと感じた時、ペットボトルのお水を買うことがあります。では、美味しい水とはいったい何なのでしょう?
 その定義を調べてみると「カルシウム・ナトリウム・炭酸ガスなどを適度に含み、有機物や臭気は極めて少ない事」などと定められており、一言で表すのは難しいようです。

■小樽の水

 ペットボトルタイプの〝小樽の水〟が売られていたことをご存じでしょうか?
道内では函館が昭和64年にボトルタイプで販売したのが先駆けで、恵庭、札幌など多くの自治体がそれに続き、小樽では平成16年から販売されました。
「小樽の水の美味しさを再認識してほしい」そんな想いから販売され、その目的は達成できたようにも感じます。現在では製造を終了している自治体が多く、小樽も令和3年3月末で製造終了となりました。

 余談ですが、就職で小樽を離れた友人が帰省したとき「やっぱ小樽の水は美味いな!」と、水道水に感動したと笑顔で話す姿が印象的でした。小樽はやっぱり良い街だと感じるのは、水が美味しいことと、星が綺麗に見えること、だそうです。


 ニシン漁で栄えた小樽、それは目の前に広がる海があってこそ。小樽運河は水に関連する建造物。良質な水を原料とする蒲鉾などの水産加工品の発展が早かったなど、飲み水以外にも、小樽の水に纏わる物語はまだまだあります。

■お酒とお水

 かつて道内主要の酒造地だった小樽では、良質な水を求めて勝内川付近に酒造を構える酒蔵が沢山ありました。現在も日本酒を作り続けている田中酒造では、天狗山の伏流水を仕込み水として使っています。
 また、北海道ワインが製造工場を小樽に建てた理由も、地下水温が決め手になりました。更に、「ドイツビールの文化を日本にも根付かせたい」と、ブラウエンジニア(ドイツでのビール醸造に関する国家資格)が日本各地の水を調べ、ビール造りに最も適していると選んだのが小樽の水でした。
 日本酒にワインにビール、多種多様なお酒を作ることが出来る背景には、小樽の水が関係していたのです。

■水すだれ

 奥沢にある階段式溢流路は昭和60年に近代水道百選に選ばれている土木遺産です。
高さも幅も均等に統一された10の階段によって水の勢いを弱める働きがあり、不規則に流れ落ちる水の粒は「水すだれ」とも呼ばれ、荒々しい水の音は最後の階段をおりると、白い線を水面に描きながら下流に向かって流れていきます。
 豪快から静寂に向けて流れ落ちる水に乗せた鳥たちの歌声が空間を包み、圧倒的な土木遺産が君臨する情景はまるで、オペラを見ているような気分です。 
 小樽運河や水すだれ以外にも、水に関係する施設や建造物が小樽には多く残されています。

■消火栓ゴレンジャー

 小樽の消火栓はカラフルという事に、お気づきでしょうか?
赤・青・黄を組み合わせた5種類の消火栓が小樽市内に点在し、その光景は、ANAの機内誌「翼の天国(昭和54年5月号)」に掲載されるほど珍しかったようです。
 小樽の消火栓は他にも、雪国ならではの様々な工夫が施されています。時代や環境に合わせて小樽の消火栓はその姿を何度も変えていますが、変わらない理由は〝市民の生活と命を守るため〟なんです。

 小樽の水の〝美味しさ〟だけで比較すると、他の都市に適わないかもしれません。しかし、これらの水に纏わる物語を聞けば、味覚だけで小樽の水を語るのはもったいない事がはっきりと分かります。
 水の都・小樽に来たら、水にも注目して街を歩いてみてくださいね!

参考文献

おたる水道100年のあゆみ
小樽市の消火栓について(小樽市HP)