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そろそろ小樽も冬本番。
外の寒さは正直こたえるけれど、雪道の散歩はそれ以上に楽しい。雪化粧した小樽の通りは夏よりもっと綺麗に見えるのだ。
そんな、個人的にはアツい季節である冬号・おたるのほそ道のテーマは『入船通り』。
王道観光スポット堺町に隣り合っていながら、病院ありスーパーマーケットありと市民の生活圏にもほど近い。
観光とローカルの間にあるこの通りは面白いんじゃないか!?と目をつけたのだ。
今回訪問したお店(リンクで移動できます)
1.本場以上!?超本格派イタリアン|ベリーベリーストロベリー
2.国を超え時代も超えて、愛され続ける喫茶店|時代屋
3.思いがめぐる 素敵なキッチン|キッチンぐるぐる
思いがめぐる 素敵なキッチン|キッチンぐるぐる
通りを歩き続けてしばらくすると右手にCOOPが見えてきた。そのすぐ手前の交差点を左に曲がって少し坂を登れば、最後のお店がある。
『キッチンぐるぐる』さん。
物語に登場してきそうな佇まいが素敵な、スパゲティ屋さんだ。

マスターの手塚建さんは富山出身。とっても気さくでお話上手。
「昔は自転車で旅をしていたんです。
当時、拠点にしていた大阪から日本海側を北上していって、北海道を反時計回りにぐるっとね」
小樽を訪れたのも北海道一周の途中だったそう。

お店の入り口には手塚さんの相棒が今も停まっている。
「当時は旅人の間で越冬ブームっていうのがあってね、『冬を経験してこその北海道だ』みたいな…。
それなら自分も一冬だけ住んでみようって思ったんです」
アルバイトを探していたところ、ご縁があった堺町のレストランで働くことになった。飲食業は未経験だったが、だからこその意外な発見もあったようで…
「飲食やってると仕事しててもお客さんと話ができるんですよ。
旅はできないけど人との出会いはある。
あ、これいいなって思って」
「かっこいい言い方をすれば、お客さんが旅の風を連れてくる…みたいな(笑)」
思いのほか接客がハマった手塚さん。
気がつけば10年の月日が経ち、2001年の2月26日に今のお店をオープンした。
「もう35年、スパゲティをゆで続けております!」

『なすとツナのバジル風味』
普段はランチでしか出していないメニューを特別に作っていただいた。ツナの旨味にバジルの風味がアクセントになっていてとてもおいしい。
「一番大事なのはお客さんと楽しく話せる空間で、私にとって料理はそのための手段なんです。
そのために自分にできるのは、お客さんが求めている『いつもの味』を提供すること。
常に同じクオリティで料理を作ることが自分の使命だと思っています」
「たまたま最初に勤めたところが、スパゲティがメインの店だったからスパゲティを作ってるけど、もしラーメン屋で働いていたら今頃ラーメンを作っていたかもね(笑)」

ぐるぐるって名前にはどういう意味があるんですか?
「それにはね、とっておきの話があるんです」
「うちのかみさんが渦巻き模様が好きでね、店の名前を考えているときにぐるぐるっていうのを閃いたんです。
その日のうちにかみさんにどうだろうって提案をしたら、ええっ?ってすごい怪訝な顔をされてね…
聞いてみたら自分も同じ名前を思いついていたって言うんだよ!」
夫婦そろって同じ日に同じ名前を思いつくというミラクル!
「もうぐるぐるでいくしかないでしょう!ってなったね。
店をやっていくのに不安はあったけど、これにはちょっと勇気が出ました」
ひょんなことからな決まったお店の名前だったが、いざ始まってみると…
「スパゲティを巻くときもぐるぐるじゃない?」
「グルメのグルも入ってる?」
「ちょっとやんちゃな言葉で仲間内のことをグルって呼ぶよね、もしかしてそういう意味?」
とお客さんから続々と由来の候補が出てくるようになった。
「最初は本当にシンプルに考えた名前だったけど、みんなが意味を後付けしてくれて。
小さな子どもが名前を呼んでくれることもあって、この名前にしてよかったなあって思ってます」

あたたかみのある店内の雰囲気も魅力のひとつだ。
「色のコンセプトとしては壁の白と、テーブルの茶色。あとはワンポイントの深緑ですね」
「この建物自体は空き店舗の頃からうちのかみさんがずっと気になっていたんだよ。
自分は稲穂・花園・色内っていう街中に執着していたから最初は、ええっ?って思ったけど、やってみると大きな病院も近いし南小樽駅も近いしで地元の人も来やすいなって。
今じゃ見つけてきてくれたかみさんには頭が上がらないよ」

壁には一面覆いつくすほどの大量のCD。全て手塚さんが集めたものだそう。
「音楽好きなので店のBGMは有線とかじゃなくて、毎日選んでかけるっていうのをしたかったんです。
まずは自分がリラックスして楽しめる空間にしよう!ってね」

他のお店ではあまり見かけない木製のメニューブック。なんとオープン当初から使っているらしく、内装工事のときにでた端材を使っているんだとか。

中を見てみると『2025満月カレンダー』と端に書かれている。
これはなんだろう?
「毎月、満月の日には店内でライブをやっているんです。
こういう仕事をしていると行きたくてもなかなか行けないからね、それなら自分でやってしまおうと」
「この満月ライブは実は他から引き継いだもので、昔、梁川通りにあった『あじや』ってお店がやっていたんです。そのお店は閉めることになっちゃったんだけど、満月ライブだけは有志で続けていくことになって…
それでうちに白羽の矢が立ったんです」
「うちは77回目からやっているんだけど、今度の12月5日のライブが320回目になるかな」
320回!!
年に12回あったとしても26年以上。
「それも皆さんのおかげですよ」と、どこまでも謙虚な手塚さん。

机や椅子もオープン当初から使い続けている。どれも、今は亡くなってしまった手塚さんの友人がお店の雰囲気に合わせて作ってくれた一点モノだという。
「いろんな人の思いが合わさって、こうして店をやっていけてるんです」
名は体を表すとはまさにこういうこと。
マスターとお客さん、お店の空気がぐるぐるととけあって、コーヒーミルクのように懐かしい味わいを作っている。
初めてきても『いつもの場所』のような、
独特の居心地にきっと誰もが心安らぐはず。

キッチンぐるぐる
小樽市入船1-6-16
TEL 0134-24-2300
営業時間 10:00 ~ 21:00
定休日 日曜日、祝日
ホームページ https://guruguru-226.crayonsite.net/
今回、3軒のお店を訪ねてみて、そのどれもが何十年も続けてきた言わばベテランのお店だった。
何十年って並大抵の時間じゃない。
これだけの月日をひとつの仕事に注いできたその陰には、それこそ並大抵じゃない思いがあったんだろう。
取材をさせていただいてるときにも、朗らかで和やかにお話をしていても、それぞれが内に秘めた信念が皮膚を抜け空気を伝って、じりじりと照りつけてくるのが分かった。
そんなかっこいい大人たちが、こだわりのお店で迎え入れてくれる場所。
それこそが入船通りなのだ。
ではこのあたりで最後の一句。
「見えずとも 今なお流れる 人の道」

小樽通編集部 小竹多聞
広島生まれ愛知育ち。
北海道の雪は好きだけど寒さには弱い。小樽での楽しみは行きたい店リストをコンプリートすること(159軒/268軒)
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小樽の締め焼肉 ”スタンダード”と”新風”をめぐる|花園女子旅レポートVol.6
2025年12月26日 (金) 16:00 配信
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