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現在、オール小樽で取り組んでいる「小樽おもてなし認証」制度。全国初・地域独自の制度として、小樽観光協会が事務局を務める「小樽おもてなし認証推進協議会」を中心に「小樽をおもてなしの街に」との想いで活動しています。この認証を取得した企業・施設は、認証のプロセスのなかで自社のおもてなしをあらためて見直し、他の認証取得施設と共に学び合いながら、さらなる「おもてなし力」向上に努めています。そんな「小樽おもてなし認証」を取得した今年度の事業者をご紹介していきます。
※記事の内容は、配信時の情報に基づきます。 最新情報は、各施設へお問い合わせください。
1. 田中酒造株式会社 本店・ 亀甲蔵
現在、小樽唯一の造り酒屋となった「田中酒造株式会社」。1899(明治32)年創業の老舗企業であり、「日本酒という日本固有の文化を継承していく」という強い想いを胸に、社員の皆さんは日々お店に立っています。とはいえ、「大切にしているのは楽しく働くということと、エンターテイメントであること」と話すのは、田中酒造(株)の岡田専務。「国内外からいらっしゃるお客さまに、当社が長く続いている造り酒屋であることや、日本酒の歴史をきちんとお伝えしながらも、ここでしか体験できない楽しい時間を過ごしてもらえるよう接客しています」と話してくれました。


3年以上従事した社員は、「日本酒造組合中央会」で日本酒について学び、「酒造技能士」の資格を取ります。「若いスタッフ達は、先輩から知識や歴史を受け継いでいきます。ただ、自社のお酒だけはなく、日本酒全体について知っていることで、お客さまとの会話が広がるんです」とのこと。「会話を通し、お酒について理解が深まると自然と購入に繋がります。もちろん、お客さまも喜んでいただける。だからこそ、お客さまとのコミュニケーションを何より大切にしています」と語ります。


亀甲蔵では、2階で酒造りの工程を見学することができます。見学案内時のマニュアルはあるものの、各スタッフはそれぞれアレンジを加え、工夫しながらご案内しているそう。そして、亀甲蔵1階でのお楽しみは、「試飲」です。岡田専務が「試飲こそ、エンターテイメント」と言うように、代表銘柄の「宝川(たからがわ)」や季節限定酒などを、楽しみながら味わっていただきます。「ここでの“楽しかった”という体験が、購入に繋がるんです。だからこそ、パートやアルバイト、製造を担当する社員にも、お客さまとコミュニケーションを取り、“へぇ~”と思っていただくような話ができるようにと毎朝伝えています」と教えてくれました。

田中酒造本店も含め、イベントをたくさん開催しているのも、すべてはお客さまに楽しんでいただくため。「札幌からご来店される方は、年に何度も来られます。2回目、3回目も同じだと面白くないでしょうから、毎月イベントを開催しているんです。じつは、イベントを企画・開催することで、若いスタッフの成長にも繋がっています」と岡田専務。また、「亀甲蔵は観光バスでご来店される団体のお客さまも多く、滞在時間も限られます。それに比べ、本店はゆっくりじっくりとお酒選びを楽しめる空間です。本店のほうがリピーターのお客さまが多いのも、スタッフとゆっくり会話し試飲を楽しみながら買い物できるからだと思います」と教えてくれました。同じ企業でも、やはり本店と亀甲蔵では雰囲気も違うため、自然とおもてなしの形も変わっているようです。

そんな本店で活躍するスタッフのひとりが、日本のアニメや漫画に興味を持ち、小樽商大の留学生としてケニアから小樽に来たメアリーさん。田中酒造に採用されてから、初めて「日本酒」を知ったそうです。また、中国出身のスタッフも2名おり、外国人のお客さまに英語や中国語で説明をしながら購入してもらえるので、お客さまの満足度も高いと岡田専務は語ります。2024年に日本酒や焼酎の「伝統的酒造り」は、ユネスコの世界無形文化財に登録されました。ますます注目を集める「日本酒」の魅力を伝えるべく、田中酒造では、お客さまへの丁寧な日本酒についての説明と、エンターテイメントを意識した「楽しんでもらう」というおもてなしに力を入れています。岡田専務が「世界中のお客さまとコミュニケーションがしたいです!」と熱く語ってくれたように、田中酒造では「対面での会話」がおもてなしの肝。その会話というおもてなしを通じて、日本酒の魅力が、小樽から世界中に発信されていくことを願っています。

2. ウィンケルビレッジ
朝里川温泉の豊かな自然のなか、客室露天風呂で温泉を楽しんだり、暖炉に火を灯したり、バーベキューを楽しんだり、ワンちゃんと一緒に泊まったり・・・。思い思いに過ごすことができる「ウィンケルビレッジ」は、アウトドアやキャンプも楽しめるアクティブな施設です。取締役副社長の藤井さんは、「ここはホテルではないので、特別丁寧なおもてなしが必要だとは思っていません。それよりも、フレンドリーであることを心掛けています」とニッコリ。フロントには、スタッフの顔写真とプロフィールが掲示されており、趣味なども含め自己開示することで、名前や顔を覚えてもらえます。まさにフレンドリーなおもてなしで、お客さまをお迎えしているんです。

日常を離れた特別な経験ができるのも、ウィンケルの楽しみ方。たとえば暖炉の火付け体験は、スタッフが手伝うわけではなく、「お客さまが工夫して楽しんでほしい」と、あえて難しさも含めて体験してもらうことを大切にしているそう。「自分たちでやるからこそ、記憶に残るんです。だから過剰なサービスは必要ないと思っています」と藤井さん。ただ、もちろん「安全であること」は大前提なので、「初めての方のために、火の付け方の動画を作っています。初心者に対して優しくすることはおもてなしです」と藤井さんは語ります。最初は丁寧に手を差し伸べ、その後はそっと見守るおもてなしが、ウィンケル流のようです。

また、フロント前にある各種ゲームやレンタル品の数々も、ウィンケル流のおもてなしのひとつ。トランプやマージャン、ジェンガなど、子どもから大人まで楽しめるアナログゲームは、自宅だとなかなか時間に追われてできないことも多いのでは。ウィンケルでは、お孫さんとおじいちゃんおばあちゃんが三世代でゲームを楽しんだり、若者たちがホームシアターや大画面ゲームで盛り上がったりするそうです。「アウトドアが好きな人ばかりではありませんから。お客さまからのアンケートで、こういうレンタル品があったらいいなという意見があるとスタッフ間で相談し、追加しています。お客さま主体で、宿を楽しんでほしいんです!」と語るのは、スタッフの加藤さん。また、藤井さんは、「こういうレンタル品も含め、宿の設備などを清掃・消毒し、キレイに保つことも大切なおもてなしです。スタッフには、“接客以外のほうがサービスの最前線”だといつも話しています」と教えてくれました。

加藤さんは、「小樽おもてなし認証」を取得し、取得施設が参加する勉強会で学ぶことで、「こんな方法もあるんだ」と、あらためておもてなしを具体的に考えるきっかけになったそう。「その感想は社内で共有していますし、お客さまの大切な情報も、毎朝、毎夕のミーティングで共有します。チェックインした時の情報など、夜間や翌日に交代したスタッフがちゃんとわかるようにしています」と話してくれました。ウィンケルビレッジのフレンドリーなおもてなしを支えているのは、細やかな安全管理や整備、そして徹底した情報共有。だからこそ、国内・海外からのリピーターに愛され続けているのでしょう。
3.北海道ガス株式会社小樽支店
小樽市内のガス契約3万3千件、北ガス電気の契約は1万件と、市民と関わりの深い「北海道ガス(株)小樽支店」。親しみを込め「北ガスさん」と呼ばれる地域密着の企業であり、小樽だけではなく北海道全体を支える企業のひとつと言えるでしょう。小樽支店営業グループの山田係長は、「観光業ではありませんが、私たちもサービス業。感動を与えられるようなおもてなしを目指しています」と熱く語ります。
もともと北ガスには、「地域貢献」という企業理念があります。「小樽支店でも、地域の拠点として何か我々がお役にたてることはないか?と常に考えています。たとえば、後志地域の少年野球を支援するための「北ガスフレアスト杯」の主催。北ガス硬式野球部の選手が先生となって、野球教室を開いています。子どもさんが減っていくなかでも、スポーツや文化面で表現や発表の場をつくるお手伝いができればと考えています」と話すのは、営業グループの二瓶マネージャー。
また、小樽支店が2025年に特に力を入れたイベントが、ウイングベイ小樽の屋外駐車場で行った「taruフェス」です。「地域の皆さまへの感謝を込めて、地元の中学校の吹奏楽演奏のほか、とにかく地域から多くのみなさまにご出演・ご参加いただきました。前日の夜に低気圧が来て、当日の朝はテントが壊れてしまうなどハプニングもありましたが、延べ4千人のお客さまにお越しいただきました!」と、山田係長は笑顔で振り返ります。「こんなイベントを、民間企業がよくやったねと言われました。苦労もありましたが、“地域への感動”を考えるとイベントは大切です。小さなものからtaruフェスまで、今年はイベントをかなり増やしました」と話します。エネルギー会社として「全国豊かな海づくり大会」の全道大会も小樽で行うなど、環境に対する発信も。これらのイベントの話だけでも、「地域の皆様のお役にたち、北海道を盛り上げていく!」という熱い想いが、ひしひしと伝わってきました。

そんな“地域のため”という想いは、日々の仕事にも当然表れています。今回の小樽おもてなし認証の覆面調査結果は、なんと満点!という北ガス小樽支店。社員の皆さんもビックリされたそうですが、「接遇マニュアルはあるものの、特におもてなしの教育はしていないんです」と聞き、こちらもビックリ。ただ、電話対応をした若い社員の方は、どのようにしたら自分がお客さまと会社に役にたてるかを考えて対応されたそうで、自然と「次にお電話をいただく際は、わたくし宛てにお電話ください」と応対したそうです。大きな会社ですから、内容によっては札幌のコールセンターで一括して受けていいはずですが、“お客さまとは一期一会。最後まで自分が対応する”という想いが、その電話応対にも表れたのでしょう。顔の見えない相手であっても、お客さまに感動を与えることはできるということが、お話を聞いてよくわかりました。

小樽おもてなし認証制度は、観光業のためだけの制度ではありません。日ごろ、市民と接点の多い企業やお店こそ、ぜひ興味を持ち、オール小樽で一緒におもてなし力を磨いていただきたいと思います。北ガスさんには、そんな企業のリーダーとして、ますます“地域のため”のおもてなしを発信し続けていただきたいと思います!
(※写真はすべて北ガス小樽支店より提供)
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ライター 田口 智子
1974年札幌生まれ。1996年に小樽市職員。観光振興室勤務などを経て、2007年にFMおたるに入社。2023年11月からフリーのパーソナリティー、ライターとして活動している。小樽の街歩きガイドブック『小樽さんぽ』『小樽さんぽ2』『とっておき!小樽さんぽ』などの著書がある。
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