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【小樽通2025夏号】「飴色に染まる空間で悠久の時を」旧日本郵船株式会社 小樽支店を徹底解剖!

2025.06.28

北運河に佇み、圧倒的な存在感を放つ「旧日本郵船株式会社 小樽支店」、もう足を運ばれましたか?保存修理工事を終え、2025年春からなんと6年半ぶりに公開が再開となりました。

小樽の栄華を今に伝える「旧日本郵船株式会社小樽支店」、館内に足を踏み入れると、まるで明治期にタイムトリップしたかのよう。訪れる人を飴色の記憶の世界へと誘います。その見どころと楽しみ方をたっぷりとご紹介します。


※記事の内容は、配信時の情報に基づきます。 最新情報は、各施設へお問い合わせください。



まずはご覧いただきたいのが、こちらの写真です。「旧日本郵船株式会社 小樽支店」の館内の様子が撮影された画像ですが、建物の重厚感が伝わってきますね。

この画像は、北海道を拠点に映像制作事業などを展開するジオグラムス株式会社の代表取締役である伊藤広大さんの撮影によるものです。といっても、SNSでこの建物の公開が再開となったことを知り、居ても立っても居られず、お休みの日に駆けつけて、じっくりと撮影されたとか。プロも馳せ参じてしまう魅惑の建物、それが「旧日本郵船株式会社 小樽支店」なのです。

伊藤さんの美しい写真は、それぞれどこの場所を撮影したものなのか、種明かしが気になるところかと思いますが、このあとヒントとなる建物の解説を進めていきますので、正解は、是非、実際にご来館いただいて、お確かめください!



さて、この「旧日本郵船株式会社 小樽支店」ですが、読者の皆様、読み方はご存知でしょうか?「え?知らなかった!」という市民も多いのですが(実は私も)、正式な読み方は「キュウ ニッポンユウセン カブシキカイシャ オタルシテン」となります。

〇ニッポンユウセン 
 ✕ニホンユウセン
〇カブシキカイシャ 
 ✕カブシキガイシャ

「近世ヨーロッパ復興様式」、石造2階建の明治39年(1906年)に建てられた事務所建築。工部大学校(東京大学工学部の前身)の第一期生である佐立七次郎の設計です。

当時、小樽港は「北の商都」として栄え、本州の大都市と肩を並べる存在。日本屈指の船会社である日本郵船も、もちろん小樽に支店を構えます。
小樽のまちには、明治から大正・昭和初期の銀行建築のように当時の一流の設計者が手がけた建築物が多く遺っていますが、この「旧日本郵船株式会社 小樽支店」もその一つなのです。



■旧日本郵船株式会社 小樽支店
小樽市色内3-7-8 
電話0134-22-3316
開館時間 午前9時30分~午後5時
休館日 火曜日
入館料 一般300円、高校生・市内在住70歳以上の方は150円、中学生以下無料
※詳細は公式サイトでご確認ください

運河の散策路をてくてくと歩いていくと、浅草橋から15分ほどで、運河の北側の端にある「運河公園」にたどりつきます。車で行く場合は、建物に向かって右側、隣のアパートとの間にある敷地に無料駐車場がありますのでご利用ください。駐車場の奥へと歩いていくと、裏手にある手宮線跡地に出ることができます。

建物に向かって右手に駐車場

建物裏手に手宮線跡地



明治時代からの洋風建築によくみられるように、玄関にはアーチが使われています。なんだか特別感に包まれますね!国の重要文化財に指定されていますので、建物保全のため、館内ではスリッパに履きかえていただきます。

建物外観

右から左に読むんです~

ここでスリッパに履きかえ



館内に入ると、古い建物独特の懐かしさを感じる匂い、そして目の前に広がる光景に、時間旅行をしているような感覚になるのではないでしょうか?

 

旧日本郵船株式会社 小樽支店(以降、「郵船」と略させていただきます)を楽しむための見どころを、小樽市総合博物館 館長の石川直章さんに伺いましたので、ご紹介してまいりましょう。

入館後すぐのゾーンでは、パネル展示がありますので、「郵船」について、知ってから館内をめぐるのがおすすめです。

そのまえに、簡単にポイントをまとめましたので、こちらもおさえてくださいね!
①建物に見惚れましょう。建築マニアじゃなくてもきっと楽しい!
②写真映えの場所があちこちにあります。カメラ持参でどうぞ。
③着物・浴衣の着付け体験もあり。営業室の椅子に座るのもOK。長居前提で♪



建物には、目の美しさから「小樽軟石」が使われていますが、金庫室の床は丈夫に作りたいということで、固い札幌軟石が使われています。

金庫室マニアの方には、「マンホール」も興味深いでしょう。堅牢な金庫室の扉が万が一開かなくなってしまった時のための人孔(じんこう)です。「郵船」では中庭につながっていますが、小樽市内に残されている銀行建築によってそれぞれ異なり、旧三井銀行小樽支店は隣の支店長室に、日本銀行旧小樽支店はロビーにつながっています。小樽市内のほかの銀行建築も見てみてくださいね!



スチールシャッター、ローラーシェードはアメリカから、床のリノリウムはドイツから、ドアノブはイギリスからというように、海を越えて当時の一流のものを取りよせて建てられた「郵船」ですが、実は初代の建物は火災に遭っており、この建物は2代目。木骨石造の建物が多い小樽には珍しく純石造で、火事に強い石壁です。

(銀行建築では、旧北海道銀行本店/現・小樽バインも純石造です)

意匠を凝らした営業室の雰囲気も、日本屈指の船会社としての威厳が感じられます。

初代が建てられた頃の小樽とその発展度はずいぶんと変わっていたことでしょう。小樽には一流のものを建てなければ!的な雰囲気だったのかもしれません。

頑丈な壁で支えているので、実は柱はあとからつけられたもの。

飴色に輝くコリント式の柱の装飾にご注目。天井にも金唐革紙を模した紙が!見上げてみてくださいね。



一般のお客様は正面玄関から入ってきて、カウンターで荷物やチケットの手続き業務が広々とした営業室で行われます、一方、貴賓用玄関は別で設けられており、支店長室との行き来がしやすいようになっています。動線がしっかりと組まれていたのですね。

営業室に設置されている机や椅子は、残されていた当時の写真から、復元されたものなので、触れることができます。そしてなんと、実際に座ってもOK!

夕方、きっとオレンジ色の柔らかい西日を受けて、館内はまさに飴色に染まることでしょう。時の流れが止まったかのようなこの空間で、ひと時を過ごすのもおすすめです。

執務机の向こうにカウンターをはさんで、正面玄関。画像左手側には支店長室があります。

電気の配線も当時のもの。座席の位置にあわせて、電球の場所を調整できるようになっていた!



「白山丸」の模型が、日本を代表する船会社である日本郵船を象徴する資料として、展示されています。

小樽とはあまりゆかりのない船なのですが、昭和30(1955)年、日本郵船から建物が譲渡された時、郵船本社から小樽市に寄贈されました。
実はこの模型は、船舶模型の世界では伝説ともいえる「籾山艦船模型製作所」が就航の翌年、大正13(1924)年に製作しています。郵船本社にはこの籾山模型製作の1/48スケールの大型模型を4隻所蔵していました。白山丸のほかには、横浜港に係留されている米国航路で活躍した「氷川丸」、同じく米国航路に就航していた「浅間丸」と「鎌倉丸(秩父丸」で、いずれも花形の航路に就航していた大型客船です。郵船がその貴重な4隻の中から白山丸を寄贈したことは、この支店の建物自体に大きな愛着があったことを示しているといえるでしょう。
小樽市総合博物館 公式Facebook

日本郵船の花形航路、欧州航路に就航した貨客船(貨物と旅客を取り扱い)でしたが、太平洋戦争中に特設艦船として戦場で使用され、昭和19年に潜水艦により撃沈されました。



貴賓用の玄関と隣接する支店長室の奥には第一応接室(非公開)があります。窓から、営業室の様子を確認できるようになっています。

現在は、モニターで館内の説明動画を流していますので、ここで座ってゆっくりと眺めてから館内をめぐるのもよいですね。2階に上がるのがご不自由な方にも雰囲気を楽しんでいただけます。

映画「Love Letter」で中山美穂さん演じる主人公が勤める図書館になっていましたね

貴賓用玄関を説明する石川館長



階段から2階に進むと目に飛び込んでくるのが貴賓室超VIP用の休憩室で、当時、主要駅や主要港にはあったそうです。

天井が空色の漆喰、壁紙に使われているのは金色が鮮やかな「金唐革紙(きんからかわかみ)」、そして合わせ鏡が配置され、光が明るく反射する豪華なお部屋です。床も寄木になっていて、往時の格式を物語っています。

金唐革紙は、バッキンガム宮殿でも使われたそうで、イギリス製のものと思われていましたが、実は日本製であったことが判明。明治時代に、大蔵省の印刷局で作ったものだったのですが、その後日本では作られなくなったため、途絶えてしまっていたそう。昭和60年代に東京で技術の復元に成功、ここからこの技術は全国各地に引き継がれたそうです。

壁紙の金唐革紙は、色が濃い方が当時のもの。明るく見える方が復元されたものです。

菊をあしらった金唐革紙。左側が当時のもの、右側が復元。隣の会議室に、触ることのできる「金唐革紙」もあります。



貴賓室の続きのお部屋が会議室、160㎡を超える広々とした空間です。通常は見学のみですが、この部屋の家具や絨毯は復元されたものなので、実は休館日限定で利用貸し出しも行われています。最初のご利用は、地元の小学生の会議でした!

この部屋では、日露戦争後の「樺太境界画定委員会」が開かれています。ポーツマス条約で決定した、北緯50度の国境について、実際に両国関係者が測量し、目印の標石を設置するための打ち合わせです。「国境を決めた会議」ではなく、「どうやって測量するのか」の打合せだったのですね。

第一回目は、明治39年(1906年)に樺太現地で行われ、第二回については予定が変更となり、急遽、小樽での開催となりました。日本郵船本社から、開催10日前に使用を許可する連絡が小樽支店に入るほど、きっとバタバタと手配された会議だったようです。完成したばかりで豪華な会議室を備えている「郵船」が小樽にあったので、会場に選ばれたようです。

奥の壁側にある椅子2脚は当時のもの。この部屋の天井はクリーム色です。

窓からの景色。現在は運河公園を眺めます。



2階には、食堂や書籍室に、様々な展示がされています。

設計者の佐立七次郎は、工部大学校で教鞭をとったJ ・コンドルの弟子第一期生ですが、ほかに辰野金吾(たつのきんご)、曾禰達蔵(そねたつぞう)、片山東熊(かたやまとうくま)が同期です。

明治期に西洋の様式を取り入れて国内の建築の発展を牽引してきたキーパーソンである彼らの建築が、小樽にも残っています。展示のQRコードを読むとGoogleマップで示してくれますので、「郵船」の次に足を運んでみてくださいね!

辰野金吾 日本銀行旧小樽支店
曾禰達蔵 旧三井銀行小樽支店
片山東熊 小樽にはありませんが、弟子が小樽市公会堂を設計指導

食堂には、棟札が展示、棟梁の山口氏は小樽の人でした。佐立七次郎の紹介もあります。

書籍室で小樽市内のほかの歴史的建造物の情報を集めましょう



第二応接室では、これまでの修理の過程が展示されています。実は、耐震補強については先例がない手法で取り組んだので、そういう意味では、結果はまだ出ていないのですね。

また、使用されている石についても説明があります。外壁は、主に小樽軟石が使用されていますが、玄関の黒っぽい石は登別中硬石というもの。完成当時は赤紫に近い色だったそうですので、当時の色合いを想像すると楽しいですね。
小樽軟石は火山灰が層になったもので、石の目ができますが、佐立七次郎はこの目を建物で見せたかったようです。

触りたくなりますが、触ってはいけません。



西日が差し込む夕方は、映え間違いなし!オレンジ色に染まる廊下はきっとノスタルジック。

北国の冬を想定し、2重窓。取っ手の部分は指が冷たくならないように木製になっているなど、至れり尽くせりです。

別棟にお手洗いがありますよ。

また、館内には、ちょっとしたセレクトショップがあります。オリジナルのシンプルなアクセサリーや、館内で使用されている壁紙をあしらったお菓子、郵船グッズなどなど。館内をじっくりご覧になったあとだと、並んでいるグッズにも愛着が湧いてきそうです。



さて、旧日本郵船株式会社小樽支店は、ただの歴史的建造物ではありません。今なお息づく場として、イベントや会議利用での貸し出し活用もさることながら、着物・浴衣の着付け体験も行っています。豪華な館内は着物での写真撮影が映えますよ。実際に体験してきたのでご紹介します!

Step1 着物を選ぼう

色とりどりの浴衣・着物が用意されています。この中から1着選びましょう!



Step2 着付けをしよう

着物を選んだら、第一応接室(通常は非公開)へ移動。着物を着せてもらいます。
着物は上下で分かれているので、着やすく動きやすい!
着てきた服を脱ぐ必要もなく、5分程度で着付けは完了。

私服の上から着用します

上下に分かれているのであっという間に着付け完了!



Step3 撮影を楽しもう

着物に変身したら、早速館内をめぐりましょう。
小樽の繁栄を物語る品格ある建物の中で着物を身に着けると、思わず背筋もいつも以上に伸びそうです。
気分は明治時代の貴婦人で、撮影タイム!

帯も付けてもらいました♪












小樽が築いてきた時間の重みを伝える語り部のような存在でもある「旧日本郵船株式会社 小樽支店」、まだ訪れていないという方は、ぜひ、足をお運びください!



小樽通 編集部 永岡朋子
小樽運河と小樽港の間にある小さな事務所で、小樽観光を支えてくれる皆さんと日々奮闘中。Webマガジン小樽通では、記事制作も担当します。小樽の風景を撮るのが好きだったけれど、最近全く活動できていないので、なんとか活動再開したい!

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