おたる コラム

It’s free.

小樽商科大学
2018年 05月 25日
三浦 群来

5月初旬のある日、私は小樽駅前でバスを待っていた。私の前には5名の中国人旅行者が立っている。私は彼らの様子を何気なく見ていた。観光案内所で配布しているさくらマップを手にし、バスの路線図を指しながら「Temiya」と話している。もしかしたら桜を見るために手宮公園を目指しているのだろうか。
ここから出発するバスは、小樽商科大学行きである。

私は彼らにどのように話したら良いか迷った。5名ならばタクシーを利用するのも良いのではないかと考える。だが目的地そのものを楽しむ他に、移動する楽しみもあるのだ。彼らは路線バスを利用したいのかもしれない。
次に尋ねられてもいないのに、こちらから声をかけるのはお節介ではないのかと考えた。だが旅行中の時間は限られている。時間のロスを減らせば、少しでも多くの小樽観光が楽しめるかもしれない。
私は頭の中で、どのように説明しようか英語を組み立て始める。だが、使い慣れていないと単語が思い出せず、前置詞は合っているのかなどと不安が付きまとう。そもそも記憶の曖昧な手宮行きのバス停の位置を、どのように説明すれば良いのかが分からない。弱気になった私に名案が閃いた。

間もなく電車を降りた学生がここに並ぶはずだから、一番初めに来た学生にお願いしよう!

「お手伝いしていただいても良いですか」と男子学生に声をかけた私は、今までの状況を説明した。
彼は話の要旨を確認し、手宮へ行くバス停の場所を私に聞き、「そこまでお連れしましょうか」と提案する。
旅行者に声を掛けた彼は、彼らの目的地が手宮ということを確認すると、そこへ行くバス乗り場はここではないので、正しい場所に案内すると言った。
数メートル歩いたところで旅行者のひとりが、この案内は有料なのかと尋ねる。
「It's free.」
彼はにっこりと答え、目的のバス停までは100メートル位だと言った。そこに着くと彼は、バスの系統番号が②または③に乗車すると手宮に行けると案内する。

元のバス停に私たちが戻ると、25分発のバスが待機していた。
車内での会話で、彼は小樽商科大学の3年生、小樽生まれの小樽育ちで生っ粋の樽っ子と分かる。心の中に、小樽の未来は明るい、という希望が膨らんだ。
黒い鞄を肩から掛けた彼は、満開の桜並木の下を歩き、講義棟の階段を上っていった。

私のお節介に巻き込んでしまった彼に、この場をお借りして改めてお礼を申しあげたい。
「樽っ子、万歳!」