おたる コラム

小樽の雪

三浦群来
2017年 12月 25日
三浦 群来

あなたは北海道の雪を知っているだろうか。
それは硝子屑のようにいたくて、細くて、サラサラと乾いている。
雪道は足の下でギュンギュンもののわれる音をたてる。
そして雪は塩酸に似て、それよりももっと不思議な匂いをおくる。


これは小樽に縁のある小説家が1930年に綴った文章である。
私はこの文章に導かれて小樽に来た。

 首都圏に降る水分を多く含んだ重い雪しか知らない私は、サラサラやギュンギュンがどのようなものか想像が出来ず、ただロマンチックなイメージを抱いていた。
 そして初めて厳冬の小樽を歩いたとき、その文章に表現された通りの感覚を私の足は掴んだ。細かい雪が顔に突き刺さる痛み、雪で団子を作ろうと手に力を込めるとパーンと弾けてしまうサラサラの手触り、そして雪道を踏み締めたときに足の裏に伝わるきめ細かな柔かさ。どれを取っても心が踊る新鮮な経験だった。ふんわりした新雪は格別である。晴れた日の日光や夜間の照明に反射して眩いきらめきを放ち、自然からの贈り物に感謝したくなる。
 乾いた雪の日には傘がいらない。帽子や肩に積もった雪は建物に入る前にパパッと払うだけでよい。車のタイヤと同じように滑りにくい靴というものがあり、天気予報と相談しながら履き替えた。だが油断は禁物である。
 踏み固められた雪道は気温が下がるとツルツルの氷状路面(アイスバーン)になるのだ。風が強いとアイススケートのように立ったまま体が氷の上を滑り、坂道に差し掛かり掴まるところがないと立ち往生してしまう。こうなると自然からの困った贈り物に閉口させられる。恐る恐る足を前に出す私は、まだ雪道の初心者だ。

 もたつく私の横を小学生の列がスーッと追い越して行く。信号待ちで追い付いた私は、何故転ばずに歩けるのかとコツを尋ねる。
彼らは、滑りながら歩くことがコツで滑ることは楽しいのだと答えた。滑る=恐いに直結する私には到底それは理解不能なことで、頭はムリムリ体は
ダメダメと拒否反応を示す。いつか私に滑る=楽しいという日が訪れ、どんな雪道でも颯爽と歩けるようになるのだろうか。
 この冬も滑り止めの砂とスパイクピン付きの長靴の助けを借りて、盛りだくさんの小樽のイベントに出掛けよう。