おたる コラム

懐かしい街 小樽:川上 麻衣子

川上麻衣子デザインガラス PowderSnow
2017年 05月 30日
小樽ふれあい観光大使 川上 麻衣子

ガラス製作の魅力

小樽とご縁が繋がったのは、北欧スウェーデンで魅せられた「ガラス」がきっかけになります。1966年。まだ海外への渡航が自由化になる前に、デザイナーである両親が学ぶ土地として選んだ国スウェーデン。そこで私は生まれました。

北欧の地独特の、張り詰めた空気と澄んだ美しい冬を経験した私にとって小樽は、とても懐かしい街に感じました。

趣味で始めた吹きガラスの作品を本格的に製作し、個展開催の道を開いてくれたのも小樽になります。小樽には実に沢山の小さなガラス工房があり、職人さんから、若手の作家さんまで、それぞれに個性的な作品作りをされていて、工房を訪ね歩くだけでも充分に観光を楽しめます。
2005年から続けている「川上麻衣子ガラスデザイン展」の製作は、朝里川温泉の側にある工房で、小樽で触れたサラサラの雪をイメージした作品作りからはじまりました。作品名も「powder snow」や運河を意味する「canal」など今思うと小樽の街からイメージした作品に溢れていました。

川上麻衣子デザイン作品 写真左「powder snow」 写真右「canal」

powder snowと名付けた大皿は小樽で味わうことのできる美味しいお刺身や牡蠣を乗せる器としてデザインしたものです。
元々、ガラス製作に惹かれた理由の1つに、その魅力が、食材を乗せた時に初めて完成されることにありました。そのため、工芸品として眺めるだけの作品ではなく、日常的に使用できる器のデザインを常に心がけるようにしています。

そして、小樽と言えば「寿司」ですが、どのお寿司屋さんでも使われている器が圧倒的にガラスであることに驚きます。普通、陶器や漆などの素材が多い中、小樽のお寿司屋さんではどこも涼しげなガラスの器が上手に使われています。小樽の街がガラスと深く結びついていることを実感する瞬間です。そういう意味でも、小樽とガラスの関係は、私にとって理想的に思えます。

スウェーデンと小樽の共通点

また冒頭、小樽を懐かしく感じる場所と書きましたが、遠く離れたスウェーデンと小樽との共通点はまだまだ、沢山あるように思います。

北欧のベニスと呼ばれるスウェーデンは、森と湖の国。私が生まれた50年前の景色は今も変わらず守られていて、いつ訪れても同じ穏やかさで迎えてくれます。ただ夏と冬の風景は、気温も含めて全く異なります。夏は「白夜」と呼ばれる、沈まない太陽のもと、人々は短い夏を満喫します。しかし、8月になればもう秋。日に日に日照時間が少なくなり、クリスマスに向けては「極夜」と呼ばれる、ほとんどが「夜」という時間を静かに過ごします。私が小学生の一年間をスウェーデンで過ごした際も朝、星を見ながら登校し、星を見ながら帰宅したことをとても印象深く覚えています。観光で北欧を訪れるほとんどの人が、白夜の夏を選びますが、本当の魅力は厳しい冬の季節にあるように思います。湖までも凍らせる気温は、寒いというよりも痛いという表現の方が近く、舞う雪はやはりサラサラのパウダースノーです。

このなにか物憂い、切なさのある冬の美しい景色が、小樽の街と重なる気がするのです。刺すような冷たい空気のなか、物思う冬。その静かな時間はとても美しく、厳しい環境が人や街を凛とさせるのでしょう。

わたしにとっての憧れが、そこにあることを、小樽の街は教えてくれます。