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【小樽通2025夏号】『おたるのほそ道』〜稲穂・仲見世通りをゆく~

2025.06.21

小樽に移住してきて5回目の春。
ちょっとしたご縁で「小樽通」の記事を書かないかとお誘いを受けた。
文章を書いた経験はあまりなくても、憧れは人一倍あったのですぐさま話に飛びついた。

記事のテーマは「おたるの通り(とおり)」。
小樽には数多くの通りがある。
歴史を感じさせる建物や少しわくわくする路地裏、見晴らしの良い下り坂。
それぞれに個性があり、歩きでの移動が多い自分にとってはかなり気になるテーマだ。
取材をしてみたいと思う通りはいくつもあるが、その中でも真っ先に思い浮かんだ場所があった。



「都通り」から覗く 知る人ぞ知る”名通り”

その通りは、都通りの電気館ビルから港へ下がっていったところにあった。
名前は『稲穂・仲見世通り』。
実は前にも来たことがあるのだが、都通りからも見えるかわいい看板や、懐かしいような通りの佇まいが不思議と気に入っていた。
今回はそんな『仲見世通り』をもっと深くまで知ってみよう。

都通りの電気館ビル前から海へ下がってゆく ※赤矢印の方向



「仲見世通り」と共に60年余り【みよ福

『仲見世通り』といえばまずはここ!
1962年創業の、通りで一番の老舗すし処「みよ福」さんだ。

まだ行ったことないという人でも、この看板を見かけたことはあるのでは?

店内には
旅先で集めたという通行手形がたくさん
あたたかみのある雰囲気にホッとする

「上にぎり」
カウンター席なら
目の前でにぎってもらえる

お寿司はわかりやすく「生」「上」「特」の3種類。
今回は「上にぎり」をいただいた。
ネタのほとんどが北海道産を使っていて美味しさはもちろん、ボリュームもかなりのもの !

お寿司を食べながら、大将の岩澤輝雄さんとおかみさんにお話を伺う。

岩澤さん)今じゃ『仲見世通り』って名前を知らない人も多いんじゃないかな。

お休みは夫婦でよく旅行するという大将の岩澤さんとおかみさん

そんなことあるかな?…いや、確かにあるかも。
実は自分も、今回取材をするまでは『仲見世通り』という名前を聞いたことはあっても、どの通りを指しているのかはっきりとは分かっていなかった。
「みよ福がある通り」と言われて、「ああ~!あの通りね!」ってくらい。
今では知名度も低くなってしまったかもしれないが、かつては小樽一の賑わいを見せたという。

なんと、たった60mほどの通りに20軒近くのお店が軒を連ねていたそうだ。 通りの長さは変わらないが、お店の数は現在の倍ほどもある。

そんな『仲見世通り』で半世紀以上にわたって見てきた岩澤さんご夫妻。
何か心掛けていることはあるんだろうか?

岩澤さん)ひとつ先、ふたつ先よりも「半歩先」を見てやってるよ。

「半歩先?」

「先を見据える」という言葉はよく聞く。「半歩先」…あまり耳慣れない響きについ聞き返してしまう。

岩澤さんは、長い間お店を営んできていろんなことが変わっていったと話す。

岩澤さん)時代が変わり、仕事終わりに飲みに出てくるお客さんも昔より少なくなった。
新型コロナウイルスの流行や物価の上昇、インバウンドの増加など大きな変化も記憶に新しい。
昔と同じだと思っていてはいけない。だからこそ遠くばかりに目を向けるのではなく、目の前の仕事、少し先の仕事に向き合って地道にコツコツ働くことが大切。

「半歩先」という言葉にはそんな意味が込められていた。

『みよ福』には小樽市内や道内はもちろん、道外やなんと海外からもリピーターのお客さんが訪れるそうだ。 確かに、ふらっと入ってみたけど「また来たいな」と思えてしまうような、居心地の良さがここにはある。

美味しいお寿司だけではなくお二人の気取らない誠実な人柄が、多くの常連さんに愛される秘密なのかもしれない。

『小樽みよ福』
小樽市稲穂2丁目13-16 仲見世通り
電話 0134-22-3429
営業時間 12:00~21:00 ※途中休憩時間あり
定休日 月・木・日曜



小樽『稲穂・仲見世通り』は東京・浅草が由縁

みよ福の大将の話にあったのが、そもそも『稲穂・仲見世通り』という名前は、東京浅草にある同じ名前の「仲見世」にちなんで付けられたらしい。

東京浅草の「仲見世」は、有名な浅草寺の雷門から本堂までの間にある商店街だ。
通りに沿って多くの店が立ち並び、奥には本堂へと繋がる宝蔵門が見える。

一方、小樽の『稲穂・仲見世通り』
海側から山側へ進んでいくと、つきあたりに小樽で一番大きい劇場「電気館」があった。
この『稲穂・仲見世通りと電気館』の位置関係が、東京浅草の『仲見世と浅草寺本堂』の位置関係に雰囲気が似ていたことが名前の由来なんだとか。

小樽・稲穂仲見世通り

東京浅草・仲見世

当時の街並みを想像すると確かに似ているかも?

ちなみに後日…
仲見世通りについてもっと知りたくなったので小樽市博物館に行ってみると、昔の地図を見せてもらえた。

「昭和32年卓上ガイド 小樽市」より

70年近く前の地図なので、「みよ福」ができるよりもさらに昔だ。
「仲見世通り」のあたりに注目してみるとお店がびっしり!。周囲と比べても明らかにここだけ建物の密度が違う。
そして、都通りにはちゃんと「電気館」の文字も。
この地図からでも、当時の『仲見世通り』が人々の拠り所として、相当賑わっていたことがうかがえる。



『仲見世通り』の名を伝えていきたい!【らく天】

続いてお邪魔したのは「らく天」さん。
地元小樽からも人気の高い居酒屋だ。

通りのお店にぼんやり明りが灯り、ついつい中へと引き寄せられそう

店内はおしゃれなだけではなく気取らない雰囲気でとても居心地が良い。

店内に入るとカウンターが広がる

かわいい落書きは
やんちゃなお孫さんの作品

よく見ると厨房の壁にはかわいい落書きがたくさん。 やんちゃ盛りのお孫さんの作品らしい。

メニューは看板とも言えるおでんを始め、海鮮にお肉、天ぷらと盛りだくさん。
いろんな料理をいただいて個人的なイチオシは、大将のおすすめ「サメガレイの一夜干し」。
サメガレイは、いぼいぼした表面が特徴的で、北海道の沿岸でもよく獲れる魚だ。
でも飲食店のメニューに並んでいるのは見たのはこれが初めて。

とっても分厚い!「サメガレイの一夜干し」

こちらも大将おすすめ
「よだれだこの中華辛味和え」(左)
「生うに湯葉饅頭ゼリーかけ」(右)

出てきたカレイが予想の倍ぐらい分厚くて驚く。
でも食べてみるともっとびっくり。身はホロホロとほぐれてしっとり、脂もしっかりのっているがとっても優しい。しっかり目に焼かれた皮と合わせて食べると、香ばしさも相まってよりおいしくなる。

自分の中でのイメージがひっくり返るおいしさだった。どうしてサメガレイを選んだんだろう。
大将の工藤貴演さんに尋ねてみた。

工藤さん)たまたま魚屋さんが「こんなのあるよ~」って教えてくれて。
見た目がちょっと気持ち悪かったんだけど、絶対美味しいよなと思って買ってきたんだよ。
「美味しい!」ってお客さんが言ってくれるから、今日もまた買ってきちゃった。(笑)

まさかのたまたまだった。
成り行きでメニューになったサメガレイだが、お客さんからの評判はよいらしい。

そんな好奇心あふれる工藤さんに、お店を始めた頃のお話を聞いてみた。

『稲穂・仲見世通り』を語り始めた工藤さん

工藤さん)最初は『仲見世通り』で店をやりたいとか、特別なこだわりがあったわけじゃなかったね。
たまたま親父がここで店をやっていたのもあったしね。
でも店をやっていく中で、いろんな人から「この通りは昔すごい賑わってったんだぞ」ってお話を聞いたり、電気館があった頃の写真をいただいたりして…
そのうち「そんなにすごかったんだ」って思うようになっていたね。
やっぱり『仲見世通り』は自分たちの自慢だね!

知れば知るほど『仲見世通り』のことが好きになっていった工藤さん。

お店に飾られた昔の通りの写真を見せてもらう

こんなエピソードも話してくれた。

工藤さん)うちの両親がお店をやっていた頃、なんでも知っているおばあちゃんがよく来ていろんな話をしてくれて…
昔、小樽の入船のあたりには遊郭があり川沿いに桜も咲いていたらしい。
きれいな着物を着た芸者さんが桜の中を歩く姿は、それはそれは見事だったんだとか。
「もしかすると古い建物がまだ残ってるかも」って聞いて、次の日には車を出して直接探しに行ったりしてね。
そんな風に昔の風景を夢見れるのって楽しいじゃない!

確かに楽しい。めちゃくちゃ楽しい。
そして工藤さんは、今では『仲見世通り』から昔の風景に思いを馳せている。

昔はお寿司屋さんが何軒あったとか、あそこにあった喫茶店は学生に優しかったとか…
直接目にしていなくても、そんな話から当時の風景が浮かぶようになる。
ただの通りが今までと全く違って見えるようになるのは面白いし、
みんなが知らない一面を知っているという小さな特別感もたまらない。

工藤さん)ちょっとしたことでもお客さんに伝えていけるように、みよ福さんには勝てないけれど、私も“仲見世通り”ツウとしてこれからも勉強していきたいね。そして盛り上げていきたい。

ひたすらに『仲見世通り』への愛に溢れている工藤さん。

そんなお話を聞いていると、自分も『仲見世通り』ツウになりたくなってくるのだ。

らく天さん。ごちそうさま。また来ますね!

●『らく天』
小樽市稲穂2丁目13-7 仲見世通り
電話 0134-22-6336
営業時間 18:00-23:30
定休日 月曜日
公式HP:らく天HP



エゾシカ肉を思う存分【EBIJIN小樽店】

先に訪ねた2軒で気になるお話を聞かせてもらった。

『仲見世通り』に新しくハンバーガー屋さんができるんだよ。

しかもどうやらジビエを使ったハンバーガーらしい。
それは行くしかないでしょ!

ということで3軒目は、4月29日にOPENしたばかりの『EBIJIN(エビジン)』さん。本店は余市にあるジビエバーガーの専門店だ。

入口に飾られた鹿の角が目を引く

2階にはイートインスペースと
素敵なチョークアートも

代表の明念大雄さんに、一番人気の「オリジナルバーガー」を作っていただくと…

EBIJINオリジナルバーガー エゾシカ肉100%

とんでもない迫力のハンバーガーがやってきた。
見た目はもちろん、漂う香りのインパクトも抜群。
あまりの重量感に思わず笑ってしまう。

手に持つとこんな感じ
ミートソースの量もすごいぞ

口を拭くためのティッシュも完備
汚れを気にせず食べられるお心遣いが
ありがたい

どうやって食べたらいいんだ、これ?!
せっかくなのでおすすめの食べ方を聞いてみると、

明念さん)ナイフとフォークも一緒に出しているけど…本当は顔中ソースまみれになりながらかぶりついてほしい!
でもバーガーらしく自由に食べるのがいちばんかな。

なるほど…そういうことなら遠慮なく!
かぶりついた一口目の感想は、もう「肉!!」。とにかく肉々しさとうまみがすごい。それなのに脂っこさは全くない。

パテは後志産エゾシカ肉100%で、ミートソースも全て鹿というこだわりよう。
あれだけのボリュームでもパクパクと食べ進め、あっという間になくなってしまった。

エゾシカ肉に対する熱い思いを、明念さんが話してくれた。

エゾシカに対する情熱がすごい明念さん

明念さん)元々、鹿肉を扱うお肉屋なんだけど、ほとんどの人は鹿肉に対して、ちょっと高めのレストランとかで食べるっていうイメージがあると思うんだよね。
でも野菜や地魚などと同じように、鹿も立派な地元の食材。
「みんなの近くにこんなに美味しいお肉があるんだよ」ってもっと知ってもらうために、まずは誰もが手軽に食べられるバーガーを選びました。

「EBIJIN」さんは、後志地域で契約ハンターにより鹿を捕獲し、肉加工・販売までを行っている。ちゃんと処理された鹿肉は、クセがなく、実はどんな料理にも使いやすいそうだ。

ちなみに明念さんのいち押しは…

明念さん)「わさびバーガー」ですね。鹿肉とわさびは元々相性抜群!
でも、それが知られていないから、なんとかして知ってもらうためにわさびを全面的に前に出したバーガーをどうしても作りたかった。
オリジナルとはまた違った美味しさで、「わさびバーガー」を頼んだお客さんは、その後もずっと頼まれる方がかなり多いよ。

こだわりのバーガーはどれもお手頃価格
次回はわさびに挑戦しよう

2階のカウンター席からは
『仲見世通り』を臨むことができる

最後に明念さんに『仲見世通り』のことについても聞いてみた。

明念さん)実は『仲見世通り』という名前は、ここにお店を出した時初めて知ったんだよね。
色々な方からの縁があってこの通りにお店を出すことになった。『仲見世通り』の方々は皆さんいい人ばかり。
地元ファンが多い『仲見世通り』で、これからはこの通りの一員として盛り上げ役になっていけたらいいな。
ここは「バーガーショップ」だから、地元の学生などが集まったり、小樽の人たちが気軽に食べに来たり…エゾシカの魅力を広めながら、コニュニティーの場にしていきたい。

衝撃のエゾシカバーガーを楽しめるお店。
『仲見世通り』に「EBIJIN」あり…となる日も近いかも。

●『EBIJIN』小樽店
小樽市稲穂2丁目16-13 仲見世通り
電話 080-5727-0888
営業時間 11:00-15:00 17:00-19:00
※日曜日は11:00-15:00の営業のみ
定休日 不定休
公式SNS:instagram



稲穂・仲見世通り』に行こう

今回は3軒にお邪魔したがその魅力は三者三様。
古き良き、そして新しき『仲見世通り』を知ることができた。
ここ以外にも、連日人気のジンギスカン屋さんがリニューアルしたり、新しい飲食店がOPENしたりと、通りにはまだまだ話題が尽きない。
地域の方々に愛され続けてきた『稲穂・仲見世通り』。
まだ訪れたことがないという人も、今夜は『仲見世通り』に繰り出してみてはどうだろうか。

ここで最後に一句! 

この道で 重ねた月日が 隠し味



小樽通編集部 小竹多聞
広島生まれ愛知育ち。
北海道の雪は好きだけど寒さには弱い。小樽での楽しみは行きたい店リストをコンプリートすること(154/263)



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